10月23日、PYMNTSが「Banks Add AI Agents, Keep Their 40-Year-Old Cores」と題した記事を公開した。この記事では、コアシステムを刷新せずAIエージェントをその上に乗せるという、銀行のシステム近代化の新たなアプローチについて詳しく紹介されている。
40年前のコアを動かしたまま、AIエージェントを「上乗せ」する
銀行のコアバンキングシステムは、なぜ刷新されないのか。答えは単純だ——コストと期間だ。
カンザスシティ連邦準備銀行の2024年レポートによれば、多くの銀行や信用組合は最大40年前のコアシステムを今も稼働させている。フル移行には数年を要し、コストは数百万ドル規模に達する。PYMNTS Intelligenceの調査では、金融機関の52%がリアルタイム決済の近代化にあたってレガシー技術を障壁と挙げ、53%が手作業の多い内部プロセスを問題視している。
結果として、行員は断片化した複数のアプリを行き来し、手作業を繰り返し、高価な統合システムに依存する状態が続く。コアを維持することにも、それ相応のコストがかかるわけだ。
こうした状況を背景に、2026年現在、「コアに触れずに自動化を進める」というアプローチが急速に存在感を高めている。規制当局による厳格な審査、移行リスクへの経営層の慎重姿勢、そしてAIエージェント技術の実用化が重なり、「コアの上にエージェントを乗せる」という選択肢が現実解として浮上してきた。
SutherlandとFlowX.AIが提示する「第三の道」
ビジネス変革企業のSutherlandとAIエージェントプラットフォームのFlowX.AIは、「コアを替えるか、現状維持か」という二択に対して別の回答を出した。既存コアの上にAIエージェントを走らせる、というアプローチだ。
2026年10月19日に発表されたパートナーシップでは、FlowX.AIが提供する220以上のプリビルドエージェントをSutherlandが銀行の既存システム上に展開・運用する。対象は北米・欧州の銀行、保険、その他の規制産業。
エージェントが担う業務は、口座開設、融資、住宅ローン審査、マネーロンダリング対策(AML)チェック、顧客リテンションなど幅広い。FlowX.AIは住宅ローン審査と商業オンボーディング向けに「プリアセンブルされた本番スタック」を用意しているという。
導入実績として同社が挙げる数字は以下だ(いずれも機関名は非公開):
- あるヨーロッパの商業銀行:与信ワークフローの手作業ハンドオフを80%削減
- 400万人以上の顧客を持つ別の金融機関:融資オペレーションコストを40%削減
FlowX.AIのCEO Ioan Iacobはこう述べている。「規制産業こそAIの最大の機会があるが、その大半はまだパイロット段階で止まっている。」
「アクションレイヤー」としてのエージェント設計思想
同様のアプローチを取るスタートアップがKastleだ。消費者向け融資機関をターゲットにしたAIエージェントプラットフォームで、CEOのRishi ChoudharyはPYMNTSのインタビューで、エージェントをレガシーコアの上に乗る「アクションレイヤー」と表現した。
Kastleの設計思想で特徴的なのは権限の段階的拡大だ。銀行はエージェントを最初は狭い反復業務に限定して使い始め、パフォーマンスが確認できた範囲で徐々にアクセス権を広げる。例えば、督促(コレクション)エージェントは支払いの処理はできるが、取り消しはできない。その操作は人間か、別の認可済みエージェントに委ねられる。「モデルのデモと規制下の銀行の間には大きなギャップがある」とChoudharyは言う。
この段階的アプローチは、金融機関が規制当局に対してエージェントの動作範囲を説明・証明しやすくするという実務上の利点もある。コアを替えないことで移行リスクを避けつつ、エージェントの権限設計によって統制を担保するという二重の保守性が、規制産業における採用を後押ししている。
Kastleは2026年9月、Insight Partnersをリードに、Y CombinatorとCommerce Venturesが参加したシリーズAで2400万ドルを調達している。
コアへの接続技術:API、MCP、そして「コンピュータ使用」
AIエージェントが既存コアにアクセスする手段は主に三つある。
- API経由:標準的な接続
- MCP(Model Context Protocol)接続:Anthropicが2024年に提唱した、LLMと外部ツール・データソースをつなぐためのオープンプロトコル。エージェントがどのツールを呼び出せるか、どんなコンテキストを持てるかを標準的な方法で定義する。MambuはMCP接続を提供しており、エージェントが同社APIの300以上の操作を検索・実行できる
- コンピュータ使用(Computer Use):エージェントが実際に画面を操作し、行員と同じUIを通じてシステムにアクセスする手法
MCPはまだ新興の標準であり、金融機関における本番採用事例は限られるが、Mambuのような主要プレイヤーが対応を進めていることは、業界の動向を示す指標として注目に値する。
「乗せる」か「替える」か——資金も両陣営に流れる
「既存コア活用」派の一方で、「コア丸ごと置き換え」を狙うスタートアップも資金を集めている。
Maximumは既存のバンキングインフラをAIネイティブなOSで置き換えるというビジョンで、2026年8月にCRVをリードとする3000万ドルのシードラウンドを調達。クラウドコアプロバイダーの10x Bankingも同月、WestpacやChase UKなどを顧客に持ちながら、AshGrove Capitalから4000万ポンドの資金を確保した。
コアを活用するか、刷新するか——現時点では両方の賭けに資金が集まっている状況だ。ただし「乗せる」派の優位点は、意思決定のスピードにある。フル移行の承認に数年かかる大手行でも、エージェント導入であれば部門単位での試行が現実的な時間軸で動く。規制環境の変化に素早く対応しなければならない金融機関にとって、この即効性は無視できない要素だ。
詳細はBanks Add AI Agents, Keep Their 40-Year-Old Coresを参照していただきたい。