10月24日、PYMNTSが「Anthropic and Hg Form Company to Embed AI Engineers in European Enterprises」と題した記事を公開した。AnthropicとロンドンのプライベートエクイティファームHgが、欧州企業へAIエンジニアを常駐派遣する独立会社を共同設立することに合意した。AIモデルを販売するだけでなく、エンジニアを顧客企業に「埋め込む」このアプローチは、エンタープライズAI市場が新たな競争フェーズに突入したことを示している。
AIエンジニアを企業に「埋め込む」新会社
AnthropicとHgは、欧州企業にコンサルタントおよびエンジニアを常駐させ、AI導入を支援する独立会社の設立に合意した。Financial Timesが関係者への取材として報じた内容によると、この新会社は年内にもロンドンとベルリンにハブを設けて立ち上げる予定だ。
このビジネスモデルは「フォワードデプロイドエンジニア(Forward-Deployed Engineer)」と呼ばれる形態で、エンジニアが顧客企業の内部に常駐してAIシステムの設計・実装・定着を直接担う役割を指す。一般的な人材派遣業や請負契約とは異なり、あくまで導入成果にコミットした技術支援として位置づけられる点が特徴だ。単なるSaaS提供にとどまらず、導入・定着まで人的リソースごと送り込む構造であり、顧客企業側の内製化支援も視野に入れたモデルといえる。
この職種の需要は急拡大しており、2025年1月から9月の間に月間求人数が800%超増加したと報じられている。従来型のコンサルティングや技術支援と異なり、顧客の業務フローに深く入り込んでAIを「動かし続ける」ための人材として注目が集まっている。
AnthropicとHgの関係
両社の協力関係は今に始まったことではない。Hgはすでに3年間にわたりAnthropicと連携しており、共同AIハッカソンシリーズの開催やHg社内でのスタッフ教育などを継続的に進めてきた。Hgはソフトウェア・テクノロジー企業への投資に特化したプライベートエクイティファームであり、欧州を中心に多数のB2Bソフトウェア企業をポートフォリオに抱える。このため、AI導入支援の「顧客候補」を自社投資先として内包している点が、今回の新会社設立を成立させやすくした背景の一つといえる。
2026年9月にはHgがこの協力関係を拡張し、Hgのポートフォリオ企業(投資先企業群)へエージェンティックAI(自律的にタスクを実行するAIエージェント)の導入を推進する方針を発表済みだ。
Hgの共同CEOであるSteve BatchelorとJB Brianは次のように述べている。
「Hgはエージェンティックへのシフトを早期から支持してきた。AIがソフトウェアビジネスの構築と競争を再編するなか、ポートフォリオ企業がフロンティアに直接アクセスできる環境を整えたい。」
欧州市場においては、AI法(EU AI Act)の施行に伴うコンプライアンス要件の複雑さもあり、外部の専門家を常駐させてリスク管理と技術実装を同時に担わせるニーズが特に高まっている。こうした規制環境が、今回のビジネスモデルを欧州でまず展開する理由の一つとも考えられる。
エンタープライズAI展開をめぐる競争
今回の動きは、AnthropicがGoldman Sachs、Blackstone、Hellman & Friedmanと組んで2026年5月に立ち上げたベンチャーと同じ方向性を持つ。そのベンチャーもClaudeモデルを大企業へ組み込むことを目的としており、金融・投資領域の大手機関と連携することで、特定業界へのディープな導入を狙うものだった。Anthropicの最高財務責任者Krishna Raoは「大手システムインテグレーターとのパートナーシップがClaudeを大企業へ届ける中核だ」と述べており、今回のHgとの新会社もその戦略の延長線上に位置づけられる。
ライバルのOpenAIも同様の戦略を取る。2026年4月の報道によれば、OpenAIはTPG、Bain Capital、Advent International、Brookfield、Goanna Capitalと組み、最大15億ドルを投じたプライベートエクイティ合弁に参加。さらに追加で40億ドルの投資も見込まれるという。OpenAIにとってもエンタープライズ向け展開の加速は優先課題であり、両社がモデル性能の競争に加えて「いかに大企業の現場に食い込むか」という実装力の競争を繰り広げている構図が鮮明になっている。
エンタープライズ向けAI展開市場は、単にモデルを提供するフェーズから、人とセットで導入を保証するフェーズへと移行しつつある。APIやSaaSのライセンスを売るだけでは、大企業のAI活用が「使われないまま終わる」リスクを避けられないことが広く認識されてきた結果でもある。AnthropicとHgによる今回の新会社は、その流れを体現した動きといえる。
詳細はAnthropic and Hg Form Company to Embed AI Engineers in European Enterprisesを参照していただきたい。