10月22日、Wiredが「Hugging Face's New AI Biology Model Lets You Chat With DNA」と題した記事を公開した。Hugging FaceがオープンソースAI生物学モデル「Carbon-X」を公開した——ラップトップ上で動作し、DNAの塩基配列に自然言語で問い合わせられるという、従来のゲノム解析AIにはなかった会話インターフェースを備えたモデルだ。
DNAを「会話」で問い合わせる
「私たちは言語モデルに新たな能力を解放した。それは根本的には、DNAとチャットできるということだ」——Hugging Faceのシニアリサーチサイエンティスト、Lewis Tunstallはそう語る。
Carbon-Xは、DNAの塩基配列と自然言語の両方で学習させたモデルだ。ユーザーは「このDNA変異は遺伝子活性にどう影響するか?」といった質問を自然言語で入力でき、会話形式で回答を得られる。技術的な専門知識を持たないユーザーでも「他のいかなるツールでもアクセスできなかったDNAに関する問いを投げかけられる」とTunstallは言う。
従来のゲノム解析AIとの違いは明確だ。Google DeepMindのAlphaGenomeはDNA配列や遺伝子変異の影響を予測するが、出力は数値形式であり、より多くの計算資源を必要とする。Arc InstituteとNvidiaが開発したEvo 2はDNAの言語を直接扱いゲノム全体を生成できるが、自然言語インターフェースは持たない。Carbon-XはDNAと自然言語を会話UIで統合した点が異なる。
モデルの設計と学習データ
Carbon-Xの開発は、中国の中関村(Zhongguancun Academy)の研究機関とイタリアのナポリ・フェデリコII世大学の研究者との共同研究として進められた。なお、Zhongguancun Academyの正確な日本語名称については元記事原文に依拠しており、読者は原文を合わせて参照されたい。
既存の言語モデルをベースに、DNAを6文字単位のグループとして読めるよう語彙を拡張した。その後、DNA配列・英語テキスト・DNAと生物学的記述を結びつけた例示を組み合わせた3,000億トークンのデータで追加学習している。DNAデータの由来は哺乳類(人間を含む)、その他の脊椎動物、無脊椎動物、植物、菌類、原生生物だ。
ウイルスのデータは意図的に除外されている。Tunstallによれば「悪用されうる危険なアプリケーションへの利用を避けるため」だという。
ローカル実行を前提とした設計
研究用途で特に重要なのが、ローカル実行への対応だ。モデルのパラメータ数は140億(14B)に抑えられており、ラップトップでも動作する。
医療・ゲノム研究の現場では、患者の識別可能データや機密データをクラウドのAIモデルにアップロードすることへの規制が存在する。Tunstallによれば、ユーザーのデータはHugging Faceや他の企業に送信されない。小型モデルへの設計選択は、こうした研究環境上の制約への対応でもある。
ただし、扱えるDNA配列の長さには制限がある。モデルは約5万塩基対の配列を処理できるよう学習されており、人間ゲノム全体(60億文字)を一度に問い合わせることはできない。ゲノムの一部を切り出して問い合わせる使い方が前提となる。
研究者が想定する用途と現時点の限界
Tunstallがまず想定する用途は、遺伝子変異が良性か疾患原因かの判別だ。これは創薬や遺伝子治療のターゲット選定において重要なステップで、誤ったターゲットを選べば治療が無効になるだけでなく、意図しない害を引き起こすリスクがある。また将来的には、患者が自身のゲノムを解釈する際の補助ツールとしての活用も視野に入れているという。
一方で、開発チームは重要な注意を明示している。実際の湿式実験(wet lab)による検証はまだ行われておらず、予測精度がどの程度か現時点では不明だ。研究ツールとしての実用性の評価はこれからとなる。
Carbon-XのモデルはHugging Faceのプラットフォームで公開されている。詳細はHugging Face's New AI Biology Model Lets You Chat With DNAを参照していただきたい。