10月17日、AI・テクノロジー系の個人ブログ「madrobot.blog」が「Nine in ten Anthropic staff expect AI to make a Nobel-level discovery by 2030. Most Americans don't」と題した記事を公開した。AnthropicのエコノミストらがMorning Consultに委託して実施した大規模調査レポート「The AI expectations gap」を紹介したもので、Anthropic社員と一般米国人のAIへの期待値を比較している。同社社員の91%が「AIは2030年までにノーベル賞級の科学的発見を成し遂げる」と予測する一方、一般米国人では39%にとどまり、52ポイントという大きな認識差が浮き彫りになった。
調査の概要と設計
レポートはAnthropicのエコノミストであるSzymon Sacher、Tess Cotter、Charles I. Jones、Anton Korinek、Peter McCroryの5名が執筆。Morning Consultが米国成人10,980人にオンライン調査を実施したデータと、Anthropic社員1,334人を対象とした社内調査の2つのアンケートをもとにしている。なお、自社の技術に直接携わる集団を、自社が委託・主導して調査した結果である点は、数字を読む際に念頭に置く必要がある。
「今できること」は一致、「2030年にできること」で激しく乖離
興味深いのは、現在のAI能力の評価については両グループの見解がほぼ一致している点だ。ルーティンのメール処理からノーベル賞級の発見まで8つのタスクを順位付けさせると、両グループはほぼ同じ順序をつけた。「AIがすでに科学研究の設計・実施・論文発表まで行える」と考えるのは、両グループともに約4分の1だ。
乖離が生じるのは将来予測だ。「来年中にAIが研究タスクをこなせる」と答えたのは社員の90%に対し、一般人は38%。2030年のノーベル賞級発見については前述の91% vs 39%という数字になる。また、AIが「どんなタスクも永遠にできない」と答えた一般人は19〜40%(タスクによる)いるが、社員でそう答えたのはどのタスクでも2%以下だった。
この差には「使用経験」が強く影響している。AIを職場で日常的に使う米国人に絞ると、「2030年までに8タスク中7つ以上をAIがこなせる」と答えた割合は**56%**まで上昇する(全米成人平均は41%、AI未使用者は28%)。社員は96%だ。
「自分の仕事の75%をAIが代替する」——社員の自己評価
最も驚く数字は自己評価だ。Anthropic社員は平均で、2030年までに自分の現在の業務時間の75%をAIが担えると予測している。米国の労働者全体では**28%、コンピュータ・エンジニアリング・科学系でAIを日常的に使う層でも40%**にとどまる。
脚注には、現在Anthropicのコードベースにマージされるコードの80%以上がClaudeによって書かれているとある。この数字は、同社がGitを廃止して独自のソースコード管理システム「Scion」に移行した背景とも重なる(関連記事: Anthropic、1日3万コミットを処理する独自ソース管理システムを開発)。フロンティアモデルの構築作業においてAIが現在担う割合の中央値は**51%、2027年末には80%、2030年末には95%**になるというのが社員の中央値予測だ。
GDPへの影響試算:一般人で+5.4%、社員では+17.1%
研究チームが独自の経済モデルに各グループの回答を入力すると、一般的な米国人の予測は2030年のGDP成長率**5.4%(通常の約2倍)を示唆する。社員の予測を入れると17.1%となり、米国経済が約4年半で倍増するペースに相当する。調査と並行して実施されたオンラインクイズに回答した23,075人の数字はその中間の12.5%**だった。
失業率についても両グループは似た論理で動く。「AIが自分の仕事の80%以上を代替する」と考える層は、2030年の失業率を平均12.2%と予測——2008年金融危機後のピークを超える水準だ。ただし社員の95%は「Anthropicの従業員数は今後12カ月で増加する」と考えており、その中央値は66%増だという。
数字の読み方
レポート自体が認めているとおり、これは「最先端AIを開発・販売している企業が、その従業員の楽観主義を測定した」調査だ。社員の数字はAnthropicというラボの内部文化を映す鏡として読むのが適切で、予測の精度保証ではない。一方で見落とせないのは、AI使用頻度と将来予測の相関が一般人サンプル内でも一貫して成立している点だ。「使えば使うほど高く評価する」という傾向は、社員バイアスとは独立した公平なデータポイントとして機能しており、認識差の一部が単なる情報格差や接触機会の差に起因する可能性を示唆している。その意味で、社員と一般人の52ポイント差は「楽観 vs 懐疑」という単純な構図ではなく、AIとの接触量が将来観を大きく規定するという仮説の傍証としても読める。
詳細はNine in ten Anthropic staff expect AI to make a Nobel-level discovery by 2030. Most Americans don'tを参照していただきたい。