10月17日、The Decoderが「China tightens export controls on open-weight models and 23 key AI technologies」と題した記事を公開した。EUは自国クラウドでオープンウェイトモデルを動かすことでAI主権を確保する戦略を採ってきたが、その供給源の一角である中国が輸出規制を強化する動きを見せている。DeepSeekのような最高水準のオープンモデルが規制対象に入れば、欧州の戦略は根底から揺らぎかねない。中国の商務省と科学技術省が公表した改定案の全容を以下で整理する。
欧州への影響が深刻な理由
The Decoderがまず強調するのは、この規制が効いてくるのは米国よりむしろ欧州だという点だ。
EUはデータ主権の観点から、モデルのウェイト(重み)を手元に置いてオープンウェイトモデルを国内クラウドで運用するという戦略を採ってきた。ところが、最高水準のオープンモデルの実質的な供給源は米国と中国の二極に集中しており、どちらの輸出規制にも左右されうる構造では、その主権戦略は極めて脆弱だ。
米国企業については、今回の規制を受けて中国製オープンウェイトモデル(DeepSeekなど)への依存から離れ、国内モデルへのシフトが加速するとみられる。一方、欧州にはその代替を素早く手当てできるだけの選択肢が乏しく、規制の影響をより直接的に受ける可能性がある。
オープンウェイトモデルが規制対象に
今回の改定案では、大規模モデル、AIエージェント、計算クラスター、データ処理など23のAI技術分野が輸出規制の対象として列挙されている。
規制の柱は二つある。
一つ目は、中国の「重要データ」を学習に用いたモデルへの輸出規制だ。「重要データ」とはデータセキュリティ法およびその関連規則で定義される概念で、国家の安全・公共の利益・国民の権益に関わるデータを広く指す。合法的に公開されているデータは対象外。また、事前にクリーニングされており、AI出力に表れず、コア技術のR&D能力を実質的に高めないと判断される場合には、学習データ全体に占める中国重要データの割合が0.1%以下であれば許容される。
二つ目が、エンジニアにとってより直接的に影響する話だ。モデルの重み(weights)、チェックポイント、ソースコード、アーキテクチャ、学習・推論手法といったコア技術全般が規制対象となる。発動条件は以下のいずれかを満たす場合だ:
- 学習計算量が 10²⁶ FLOP 以上
- パラメータ数が 2兆以上
- 国内外の主要評価機関や業界プラットフォームのランキングで世界トップ10に入る
「世界トップ10」の判定は、全体性能・特定タスク・安全性・世界規模の利用数など複数の軸で行われる。現時点でDeepSeekのフラッグシップモデルがこの基準に該当し得ることは、規制のインパクトを考えるうえで重要な文脈となる。
完全禁止 vs. 制限:サイバー兵器が最も厳しく
輸出が完全禁止になるのは、重要インフラ・軍・政府機関を標的に、自律的にマルウェアを生成・改変できるAIツールだ。ソフトウェア脆弱性の探索に使うAIツールは全面禁止の対象外だが、新たな輸出制限が課される。
オープンソース公開は「自動ライセンス」で抜け道
中国国内のオープンソースエコシステムを萎縮させないよう、規制と並行してファストトラック(迅速承認)プロセスが導入される。
規制対象の技術や重みをオープンソースとして公開する場合は「自動ライセンス」が適用される。海外に自社データセンターを持つ中国企業による現地展開、海外でのチップ製造、外国パートナーとの共同研究、国際標準策定への参加なども同様の扱いを受ける。申請書類を提出した時点で輸出が承認される仕組みだ。
一方、規制対象モデルを海外の現地サーバーにインストールする場合は、通常の輸出ライセンスが必要になる。APIコール、アプリ、ウェブサービス、SaaS、デバイス上の軽量モデルとしての利用は規制対象外だ。自社の海外クラウドで動かす場合は簡易プロセスが使える。
なお、すでにオープンソースリリースや論文として公開済みの技術は、今回の新ルール適用外となる。このオープンソース抜け道の存在が、規制の実効性をどこまで担保できるかという疑問も残る。
グローバルサウスへの働きかけ
中国はこの規制と並行して、世界人工知能協力機構(WAICO)の枠組みのもと、グローバルサウス向けのAI輸出促進と技術移転・共同ルール策定の支援を表明している。WAICOは2025年に中国が主導して立ち上げた国際機関で、米国・EUが主導する既存のAIガバナンス枠組みに対抗する「もう一つの秩序」を構築する狙いがあるとされる。規制で先進国向けの流出を絞りつつ、友好国向けには積極的に技術を展開するという二面的な戦略が読み取れる。
最終規則が発効するまでの間、企業は商務省のポータルを通じて対象輸出を登録しなければならない。
詳細はChina tightens export controls on open-weight models and 23 key AI technologiesを参照していただきたい。