10月17日、startuphub.aiが「The AI Bubble Math Finally Broke」と題した記事を公開した。AIインフラへの巨額投資を支える数字の根拠が揺らぎつつあるとして、CoreWeaveの財務構造とAnthropicのリーク情報とされる売上データを中心に財務的な懸念を指摘する内容だ。
CoreWeaveの社債利回りが「悲鳴」を上げている
この議論の出発点となるのが、AIインフラ企業CoreWeaveだ。上場企業であるため財務データが公開されており、非上場のAI企業群の中では財務実態を確認できる数少ない「炭鉱のカナリア」として機能している。カナリアが危険なガスに反応するように、CoreWeaveの市場シグナルはAIインフラ全体のリスクを早期に映し出す存在として位置づけられている。
株価は年初来で18%下落、IPO価格からの上昇率もわずか20%程度にとどまる。Financial Timesは同社の社債が「distress(財務的苦境)」を示していると報じた。アナリスト試算によれば、CoreWeaveは2030年までにさらに1,000億ドルの負債調達が必要とされる。これは、大半のGPUやデータセンターの減価償却がまだ本格的に始まっていない段階での数字だ。
営業ベースではキャッシュフローがプラスでも、今後は減価償却が長年にわたって利益を食い続ける構造になっている。
Anthropicの数字も楽観論を支えられない
もう一つの「折れた脚」として挙げられているのがAnthropicだ。元記事が参照するのは、IPOに先立って流出したとされる内部資料のQ3売上データであり、公式に開示された財務諸表ではない点に留意が必要だ。リーク情報の性質上、数字の正確性や文脈については独立した検証が難しい。
その前提のもとで元記事が示す数字は以下の通りだ。Q3月次売上高は16億8,000万ドル(Q2は11億5,000万ドル、Q1は4億8,000万ドル)。四半期ベースではなく月次売上として記載されており、年換算では約200億ドル規模のランレートに相当する。前月比での成長率は46%増ではあるが、Q2の前月比2倍増からは明らかに鈍化している。
さらに問題なのは成長率の先行きだ。現在の成長ペースを維持するには、来月に約24億5,000万ドル、1年以内には月あたり35億〜40億ドルが必要になる計算だという。投資家がIPO評価額を正当化するためには、年末までに年換算1,000億ドル、2028年までに1,800億〜2,000億ドルの売上が必要とされていた(Reuters報道より)。
Anthropicが7月に年換算650億ドルというランレートを掲げた後、Q3時点で新たな年換算ランレートを開示しなかった。この「省略」こそが、絶対的な成長数値よりも重要なシグナルだという見方が元記事では示されている。
売上の「質」も疑わしい
開示された売上高そのものの質も問題視されている。Anthropicの売上の5〜7%は「蒸留(distillation)」由来だとされる。これはOpenAIやAnthropicなど大手モデルの出力を中国企業などが自社モデルの訓練データとして利用するものを指す。こうした行為はAnthropicの利用規約が禁止するモデルの再訓練目的での出力利用に該当するとみられており、合法的な商取引とは性質が異なる。Anthropicは直近3日間でこの「攻撃」を90〜99%削減したと主張しているが、仮にそのリスクが消えても、成長軌道のギャップは埋まらないとの指摘がある。
また、調整後粗利益率85%・調整後営業利益率11%という数字も、大きなコストを除外した上での数値として批判的に取り上げられている。Q3のコスト詳細は非開示のままで、トレーニングへの支出をインファレンス(推論)側に振り替えることで調整後マージンを底上げしている可能性があるという。この「トレーニング費用の意図的な抑制」が、ユーザーがモデルの精度低下を体感する場面の背景にある可能性も指摘されている。
オフバランスの巨額コミットメント
売上規模よりも大きいのが、その裏側にあるコミットメントの総額だ。
- Anthropicの非解約可能なコミットメント総額:4,130億ドル(Reuters報道)
- Googleがオフバランスで引き受けたAnthropicへのコンピュート提供契約:8,000億ドル超
- BroadcomがApolloおよびBlackstoneと組んだプライベートクレジットファシリティ:350億ドル(うち300億ドルはAnthropicが支払えない場合にBroadcomが保証)
Hut 8やFluidstackなども関連するカウンターパーティとして名前が挙がっている。AIカペックス(設備投資)全体で3,600億ドル規模の新規収益が必要になるという試算も示されており、これらのコミットメントの持続可能性が問われている。
「ランレート」という不透明なロジック
元記事が最後に突くのは、AI業界全体に蔓延する「ランレート」という指標の不透明さだ。非開示の期間に非開示の係数を掛け合わせてはじき出した数字がIPO評価を支えており、それが現在の高騰した評価額を膨らませてきた構造的な問題だとされる。CoreWeaveもAnthropicも、コストの全体像を開示していない。粗利益率85%という数字も、コスト構造の情報なしには持続可能性を判断する根拠にならない。
※編集部の考察:類似した構造は2000年前後のドットコムバブルや2010年代後半のシェア経済バブル(WeWork等)でも見られた。当時も「ランレート」や「調整後EBITDA」といった非標準的な指標が高評価を正当化するために用いられ、後に実態との乖離が表面化した経緯がある。元記事が指摘するAIインフラの財務構造が同様のパターンをたどるかどうかは現時点では断言できないが、コスト全体像の開示を求める視点は投資判断上、引き続き重要といえる。
詳細はThe AI Bubble Math Finally Brokeを参照していただきたい。