10月16日、Sead Fadilpašićが「Bank of America had to hire 1,000 contractors to patch software flaws spotted by Anthropic Mythos」と題した記事を公開した。AnthropicのAIモデル「Mythos」が発見したソフトウェア脆弱性への対応として、Bank of Americaが1,000人の契約社員を採用し、数億ドル以上(a couple hundred million plus dollars)を投じた経緯を詳報している。ただしこの支出の背景には、脆弱性修正だけでなく規制上の是正措置という別の重大な文脈も存在しており、その点も含めて整理する。
Mythosとは何か——GenAIとは異なるサイバーセキュリティ特化モデル
Mythosは、Anthropicが2026年4月に公開したサイバーセキュリティ特化型AIモデルだ。ChatGPTやClaudeのような汎用GenAI(生成AI)とは異なり、未知のソフトウェア脆弱性を自律的に発見・悪用することに特化して設計されている。
Anthropicは当初、Mythosについて「ソフトウェアの脆弱性発見・悪用において、最も優秀な人間以外のすべてを上回るレベルに達した」と説明した。セキュリティ分野では脆弱性の深刻度をCVSSスコア(Common Vulnerability Scoring System)で評価するが、Mythosが発見する脆弱性の中にはクリティカル(CVSSスコア9.0以上)に相当するものも含まれている。その能力の高さゆえに、Anthropicはアクセスを厳しく制限。米政府、重要インフラ企業、銀行、一部のセキュリティ企業のみが利用できる体制を取った。
Bank of AmericaはそのOrganizationのひとつだったが、Mythosが動き始めると事態は大きく動いた。
AIが人間の雇用を生む逆説
「AIが仕事を奪う」という議論が絶えないが、今回の事例はその逆だ。AIが脆弱性を次々と発見したことで、それを修正する人間が大量に必要になった。
Bank of AmericaのCEO、Brian MoynihanはCNBCの取材に対してこう述べた。
「第2四半期に、パッチ作業を支援するため1,000人の契約社員を採用した。彼らは現在も、この分野で既に働いている3,000人に加えて、引き続き支援してくれている」
さらにMoynihanは同日のアナリストへの説明の中で、バグ修正と規制対応に「数億ドル以上(a couple hundred million plus dollars)」を費やしたことを明かした。これは日本円換算でおよそ数百億円から1,000億円超規模に相当する(為替レートによって変動する)。米国最大級の金融機関であるBank of Americaでさえ、これほどの規模での採用・支出は異例といえる。
Moynihanは「一度パッチを当てれば、そこまで繰り返す必要はない。パイプラインが流れていく」と述べ、この支出が一時的なものである旨を説明した。
支出の背景——脆弱性修正だけではなく規制問題も
重要な点として、今回の大規模支出はMythosによる脆弱性発見のみが原因ではない。The Next Webの報道によれば、この対応コストの背景には規制上の問題も別途絡んでいる。
Bank of Americaは10月13日、米財務省から12億1,000万ドル超の制裁金を科されたことが発表された。これはMythosによる脆弱性修正とは直接関係なく、銀行側が50億ドル相当の不審取引を報告しなかったこと、および2024年に指示された是正措置が未完了だったことが理由とされている。この制裁金の根拠となる法律は銀行秘密法(BSA)およびマネーロンダリング防止規制(AML)であり、米国の金融機関に課される報告義務に違反したものだ。
つまりMoynihanが語った「バグ修正と規制対応」への支出には、①Mythosが発見した脆弱性のパッチ適用、②規制当局から指示された是正措置への対応、という少なくとも2つの文脈が混在している。元記事はこの両者を関連する出来事として並置しているが、因果関係の直接的な連結には注意が必要だ。
業界全体に広がる影響
Bank of Americaだけではない。大手金融機関のトップたちも相次いで対応を表明している。
JPMorgan ChaseのCEO、Jamie Dimonは「深刻な作業だ。現在、数百人がフルタイムでその対応をしていると思う」とBloomberg TVのインタビューで述べた。
Goldman SachsのCEO、David Solomonも「Mythosの能力について非常に強く意識している。米政府とモデル提供者の支援を受けながら、密接に連携して取り組んでいる」とアナリストに語った。
Anthropicは「経済、公共安全、国家安全保障への影響は深刻なものになりうる」と警告しており、その言葉通りの波紋が業界全体に広がっている。
他社のテスト結果が示す実力
Mythosへのアクセスを持つ他のOrganizationが実施したテスト結果も報告されている。
- Mozilla:1回のテストでセキュリティに関わるバグを22件発見。「世界最高のセキュリティ研究者と同等の能力がある」と評価
- Palo Alto Networks:約3週間で24件以上のクリティカルな脆弱性を発見。一方でAIセキュリティへの予算を大幅に増やす必要があることも示された
人間のセキュリティチームが対処できる速度を超えるペースで弱点を暴き出す点が、業界全体への警戒感を高めている。Mythosは単なる脆弱性発見ツールにとどまらず、金融機関・重要インフラのセキュリティ体制そのものの再設計を迫る存在になりつつある。
詳細はBank of America had to hire 1,000 contractors to patch software flaws spotted by Anthropic Mythosを参照していただきたい。