10月16日、madrobot.blogが「Microsoft has trained its own 2.8 trillion parameter AI model, and says it beats every open rival it tested」と題した記事を公開した。MicrosoftがOpenAIなしで独自開発した基盤モデル「MAI-Base-2」が、比較対象の中で最大の競合であるDeepSeek-V4-Pro-Baseに対して4.2〜12.3倍の計算効率を達成したという主張は、同社のAI戦略における大きな転換点を示している。
OpenAIなしで、Microsoftが"自前の frontier モデル"を完成させた
MicrosoftのAI部門(Microsoft AI)が、独自開発した基盤モデル「MAI-Base-2」の事前学習(pre-training)を完了したと発表した。同部門のCEOはMustafa Suleimanが務める。
MAI-Base-2はMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用している。MoEとは、全パラメータを一度に使うのではなく、入力に応じて一部の専門家サブネットワークだけを活性化させる設計で、推論効率を高める手法だ。総パラメータ数は2.8兆、1トークンの処理に実際に使われるアクティブパラメータは800億となっている。
現時点でMAI-Base-2は一般公開されていない。現在はpost-training(事前学習済みの基盤モデルを、チャットボットやアシスタントとして実用できる形に仕上げる追加学習工程)が進行中で、Microsoftは結果を「近日中に」公開するとしている。
16,000枚のNvidia GB200、38日間の学習
学習の規模は相当なものだ。2026年8月〜9月にかけ、Nvidia GB200 GPU 16,000枚を用いて38日間稼働させた。学習データは50兆トークンで、知識のカットオフは2026年3月。GPU稼働率は89%、モデルのFLOPs利用率(ハードウェアの理論演算性能をどれだけ実際に使い切れているかを示す指標)は平均**21%**だった。
前身の「MAI-Base-1」(今年6月に公開された推論モデルMAI-Thinking-1の基盤)は総パラメータ約1兆、アクティブ350億だったので、今回は大幅なスケールアップだ。学習に使うユニークデータ量も前作比約36%増となっている。
また、MAI-Base-2はMicrosoftのモデルとして初めてマルチモーダル学習を最初から組み込んだ設計になっている。画像エンコーダを後付けするのではなく、テキストと画像を最初から一緒に学習させており、グラフ読み取り、PC操作、医療画像、楽譜など多様なビジュアルデータを扱える。学習データの**18%**がビジョン・ランゲージデータで構成されている。
DeepSeekに比べ「4.2〜12.3倍の計算効率」と主張
Microsoftが最も強調するのが効率性だ。MAI-Base-2の学習レシピは、比較対象の中で唯一1兆パラメータ超のオープン基盤モデルである「DeepSeek-V4-Pro-Base」に比べて4.2〜12.3倍の計算効率があると主張している。さらに自社の前作MAI-Base-1の学習レシピと比べても6.3〜12.7倍効率的だとしており、その浮いたコンピュートをモデルの大型化に充てたとしている。
ベンチマーク比較の相手はDeepSeek-V4-Pro-Base、Kimi K3、Qwen3.8-2.4T-A95B、MiMo-V2-6-Pro-RLの4モデルで、Microsoftは自社コードベースや外部ベンダーに委託したテストセットを使い、データ汚染を避けた独自評価でコード・数学・STEM・QAの各分野でMAI-Base-2が上回ったとしている。
ただし、これはMicrosoft自身が設計したテストでの自己申告だ。外部の検証はない。比較対象の4モデルのうち3つはpost-training済みのモデルしか公開されておらず、基盤モデルとの直接比較としては条件が揃っていない点をMicrosoft自身も認めている。OpenAI、Anthropic、Googleのクローズドモデルとの比較もない。
「オーガニックデータ」での学習を強調、ライセンス販売へ
Microsoftは、MAI-Base-2が他社モデルからの蒸留(distillation:大規模モデルの出力を教師データとして小規模モデルを学習させる手法)を使わず「オーガニックデータ」で学習されたことを強調している。Webクローラーはrobots.txt(Webサイト側がクローラーのアクセス範囲を指定するための標準的な規約ファイル)を遵守し、米国通商代表部の海賊版サイトリスト掲載ドメインは除外しているとしている。
この「出自の透明性」は企業向けライセンスの訴求ポイントになる。MicrosoftはMAI-Base-2の重みを企業向けAIプラットフォーム「Foundry」(Microsoftが提供する企業向けのAIモデル開発・デプロイ統合基盤)経由で「信頼できるパートナー」にライセンスする方針だ。ただしパートナー名・価格・時期はいずれも未発表である。
数日前にFoundryで公開されたMicrosoft-Decision-1はAlibabaのQwenをベースにしたモデルであり、今回の完全自社開発とは対照的だ。
なお、Microsoftは10月12日に自社AI向けチップMaia 300を発表しており、Suleimanはモデルとハードウェアを一体で設計するアプローチを打ち出している。MAI-Base-3の準備もすでに始まっているという。
Microsoftはこれまで自社AIの根幹をOpenAIに依存してきた。MAI-Base-2はその構図を変える意思の、現時点での最も具体的な証拠だ。効率性の主張が実際のモデル公開後に検証されるかどうかが、次の焦点となる。
詳細はMicrosoft has trained its own 2.8 trillion parameter AI model, and says it beats every open rival it testedを参照していただきたい。