10月15日、Databricksが「Unlock powerful insights and forecasts with Predictive AI Functions」と題した記事を公開した。この記事では、SQLやGenie(自然言語インターフェース)から直接呼び出せる予測系AI関数群「Predictive AI Functions」のベータ提供開始について詳しく紹介されている。
データサイエンスチームへの依頼待ちを解消する
「来四半期の売上はどうなる?」「あの指標がなぜ動いた?」「この数値は異常か?」——データチームが繰り返し受けるこれらの問いに答えるには、従来であればデータサイエンスチームがモデルを構築し、インフラを管理する必要があった。その結果、ビジネスユーザーは回答を待ち続け、問い自体が握りつぶされることも珍しくなかった。
DatabricksはこのボトルネックをSQL組み込み関数で解消しようとしている。Predictive AI Functionsは現在ベータ提供中で、以下の5つの関数を含む。
ai_forecast— 時系列データの将来値を予測ai_top_drivers— 指標変動の要因セグメントを特定ai_detect_anomalies— 時系列データ中の外れ値を検出ai_predict_value— 連続値の予測(回帰)ai_predict_class— カテゴリ値の予測(分類)
これらはSQL関数として呼び出せるほか、自然言語でデータを問い合わせるDatabricks製品のGenieからも利用できる(ai_top_driversは既に対応済み、他は近日対応予定)。モデルはDatabricksが一元管理するため、ユーザー側にモデル構築もインフラ管理も不要だ。
最も刺さるポイント:ゼロチューニングで動く時系列予測
今回のリリースで特に目を引くのが、ai_forecastの刷新だ。新版はLLMがテキストで事前学習するのと同様に、大量・多様な時系列データで事前学習したTransformerベースの時系列基盤モデルを採用している。時系列基盤モデルはGoogleのTimesFMやAmazonのChronosなど複数の研究・製品が競合する分野であり、Databricksもこの潮流に乗ったかたちだ。季節性やトレンドといった共通パターンを既に学習済みのため、データを渡すだけでチューニング不要で精度の高い予測が得られる。
たとえばNYCタクシー乗車データに対してai_forecastを適用するSQLは以下のように記述できる。
SELECT * FROM ai_forecast(
TABLE(SELECT date, ride_count FROM nyc_taxi_monthly),
time_col => 'date',
value_col => 'ride_count',
horizon => 24
);
このクエリ1本で、2027年末までの月次乗車数予測と季節パターンをダッシュボード上で可視化できる。

さらに新版ではホリデー対応(クリスマスや学校休暇期間など)と外部共変量の指定が可能になった。価格変更やマーケティング費用など、指標を動かす外部要因をモデルに組み込めるため、ビジネス固有の事情を反映した予測が作れる。
競合との精度比較
Databricksは時系列予測のベンチマークツールfev-benchを使い、主要クラウドデータウェアハウスの同種関数と精度を比較した。評価指標にはscaled quantile loss(確率的予測の誤差指標で、値が低いほど精度が高い)を用いており、複数タスクにわたるこの指標の勝率として集計したものが「タスク勝率」だ。すなわちscaled quantile lossは個々のタスクで計算される誤差指標であり、タスク勝率はその結果を複数タスクにまたがって集計した勝敗の比率を指す。

結果として、ai_forecastは競合クラウドデータウェアハウスの関数を上回り、さらに旧バージョンのai_forecastも超えている。
指標変動の要因分析と異常検知も1クエリで
ai_top_driversは、指標がなぜ動いたかをセグメント別に自動分解する関数だ。以下の例では、NYCタクシーの2016年1月〜2月における売上変化について、時間帯(深夜・朝・昼など)と曜日種別(平日/週末)の組み合わせで寄与度をランキングしている。「平日の昼間が最大の増加要因、平日の夕方ラッシュが最大の押し下げ要因」といった結果が定量的に得られる。
SELECT * FROM ai_top_drivers(
TABLE(SELECT month, segment_hour, day_type, revenue FROM nyc_taxi_monthly),
time_col => 'month',
target_col => 'revenue',
compared_range => ('2016-01', '2016-02')
);

ai_detect_anomaliesは時系列データを渡すと自動でモデルをフィットし、外れ値の行にフラグを立てる。日次売上の時系列に対して呼び出すだけで、異常日の検出が完結する。実装上は以下のように単純なSQLで呼び出せる。
SELECT * FROM ai_detect_anomalies(
TABLE(SELECT date, daily_revenue FROM sales),
time_col => 'date',
value_col => 'daily_revenue'
);
これらの関数はGenieと組み合わせることで、「先月なぜ売上が下がったか」「どの顧客が解約しそうか」といった自然言語の問いに対し、SQLやML知識なしで回答を得られる。汎用LLMでは確率論的な誤りが生じやすい定量予測タスクを、専用のMLメソッドで処理する点がGenieとの組み合わせにおける強みとして強調されている。
Databricksのオープン戦略との文脈
Databricksはオープンソースへの積極的な関与で知られており、MLflowやDelta Lakeといったプロジェクトを通じてデータ・AI基盤のオープン化を推進してきた。Predictive AI Functionsはそれ自体のモデルをDatabricksが管理するSaaS型の提供だが、Unity Catalog上のデータに直接アクセスできる設計であり、既存のデータガバナンス基盤と統合して利用できる点は重要だ。データを外部サービスに送り出すことなく、レイクハウス内で予測まで完結させるという思想は、Databricksのプラットフォーム戦略と一貫している。
利用対象と現在の提供状況
対象はDatabricks SQL、ノートブック、Genie、ダッシュボードのいずれの環境からも利用可能で、数億行規模のデータに対しても関数を直接呼び出せる。現在ベータ版として提供中で、公式ドキュメントからすぐに試せる。
詳細はUnlock powerful insights and forecasts with Predictive AI Functionsを参照していただきたい。