10月16日、MicrosoftのAzure CTO Mark Russinovich と Developer Division VP Scott Hanselmanが「What will new developers do when AI writes the code?」と題した記事を公開した。AIが数秒でコードを生成できる今、新人エンジニアの育成モデルそのものを再設計しなければならないという問いに対し、Microsoftとカーネギーメロン大学(CMU)が看護業界の教育手法を借用した共同プログラムPRAISEを立ち上げたことが明かされている。
「AIがコードを書くなら、新人エンジニアは何をするのか」
AIが数秒でコードを生成できる時代に、ソフトウェアエンジニアの仕事とは何か。MicrosoftのAzure CTO Mark Russinovichと、Developer Division VP Scott Hanselmanが問うのはこの一点だ。
記事の答えは明快である。「今日育てる若手エンジニアが、明日のシニアエンジニアになる」——そのためにMicrosoftとカーネギーメロン大学(CMU)は、PRAISE(Preceptorship for AI-accelerated Software Engineering)という共同プログラムを立ち上げた。
PRAISEの核心——「プレセプターシップ」という概念
PRAISEの核心は「プレセプターシップ(preceptorship)」という仕組みにある。これは看護業界から借用した概念だ。医療現場では長年、新人看護師を経験豊富な先輩看護師(プレセプター)と1対1でペアにし、実務の中で判断力と自信を積ませる育成モデルが定着している。単なる座学や観察にとどまらず、「実際に手を動かしながら学ぶ」点がこのモデルの要諦とされており、PRAISEはこの構造をそのままソフトウェアエンジニアリングに移植した。具体的には、キャリア初期の若手エンジニア(preceptee)がシニアエンジニア(preceptor)と組んで実務に当たる。
メンタリングと何が違うのか。記事では「ただ誰かが問題を解くのを見るのではなく、自分でやりながら学ぶ余地を与えること」が強調されている。シニアエンジニアは自分の判断基準(taste)や問題解決のアプローチを共有し、若手がどこに集中すべきかを助言する。若手側は、前提を検証し、不明点を同僚と議論する姿勢を身につける。
AIツールの使い方についても同様だ。PRAISEでは「AIを使いこなす判断力」自体を教育の対象と位置づける。コードを出力させるのは簡単だが、その出力を製品に組み込んでよいかどうかを判断できるのは、背後の仕組みを理解した人間だけだ。記事中では「AIが生成したコードをレビューなしに製品に組み込むか?(絶対にNOと言ってほしい)」と直球で問いかける場面があり、問題の本質を突いている。
CMUとの連携——実務と学術の有機的な組み合わせ
プログラムのもう一つの柱がカーネギーメロン大学との連携だ。CMUはソフトウェアエンジニアリング研究の世界的拠点として知られており、そのソフトウェア・社会システム学科(S3D)が本プログラムに深く関与している。若手エンジニアはMicrosoftでの実務経験に加え、CMUの正規カリキュラムを受講する。講義と少人数ディスカッションを通じて、コンピュータサイエンスの理論と実際のソフトウェア開発現場をつなぐことが目的だ。
CMUソフトウェア・社会システム学科の教授Michael Hiltonは次のように述べている。
「かつては、キャリア初期のソフトウェアエンジニアが多くのタスクをこなす中でスキルを積み上げていた。学術と実務が連携することで、双方の知見を持ち寄り、コンピュータサイエンスの研究に基づきながら、日常の開発現場にも耐えうるソリューションを生み出せる。」
この連携が重要なのは、AIによって「手を動かしてスキルを積む」機会そのものが失われかねない現状があるからだ。従来、若手エンジニアはバグ修正や小規模な機能追加を繰り返すことでコードベース全体への理解を深めてきた。AIがそうした初歩的なタスクを代替し始めると、積み上げるべき足場そのものがなくなるリスクがある。PRAISEは学術的なカリキュラムと実務プレセプターシップの組み合わせによって、この空白を埋めようとする設計になっている。企業か大学かのどちらかが次世代育成の責任を単独で担うのではなく、両者が役割を分担するという設計思想が特徴的だ。
CS学位は今でも意味があるか
記事では「AIが何でも作れるなら、CS学位は不要では?」という問いにも正面から答えている。結論は「その問い自体が間違っている」だ。
コーディング作業の比重が下がる一方で、設計・アーキテクチャに費やす時間は増えている。車が故障したとき、修理できるのはボンネットの中身を理解している人間だけだ——記事はこのアナロジーで、基礎知識の重要性を説明する。コンパイラが登場してアセンブリを手書きしなくなっても、エンジニアリングの本質は変わらなかった。AIも同様の変化だ、というのが著者たちの立場である。
AIが開発プロセスを変えつつある今、「何を作るべきかを判断する能力」と「AIの出力に責任を持つ姿勢」が若手エンジニアに求められる資質として前面に出てきている。PRAISEはその問いへの一つの実践的な回答だ。
詳細はWhat will new developers do when AI writes the code?を参照していただきたい。