10月15日、InfoWorldが「ServiceNow makes it easier to build AI agents, gives them verifiable identities」と題した記事を公開した。ServiceNowがAIエージェントに検証可能なIDを付与する「AI Passport」を発表した。エンタープライズでエージェントが乱立するなか、「誰が何をしているか」を追えなくなる前に制御の仕組みを埋め込もうという取り組みだ。
AIエージェントに「パスポート」を持たせる
企業がAIエージェントをパイロットから本番環境へスケールさせる際、避けて通れない問題がある。「どのエージェントが何をしていて、どのシステムにアクセスできるのか」が把握できなくなることだ。
ServiceNowはこの課題に対し、AI Passportという仕組みで応える。AI Passportは、AIエージェントに付与される暗号署名済みのクレデンシャル(認証情報)であり、ランタイム(実行時)に企業が承認したスコープを照合して動作を制御する。エージェントがスコープ内で動く限り自由に動作できるが、逸脱しようとした場合は、リダイレクト・制限・適切なコンテキストへの再接続、あるいはキルスイッチの発動といった対応が自動的に執行される。すべての操作は監査ログに記録される。
ServiceNowのAI製品管理担当SVP、Nenshad Bardoliwalla氏はこう述べている。「どのエージェントが動いているか、何をしているか、どのシステムにアクセスできるかを把握できなければ、スケールは急速にリスクになる。」
AI Passportはオープン仕様に基づいて構築されており、ServiceNow以外のガバナンス製品やIDプロバイダーも自社・サードパーティのエージェント向けにクレデンシャルを発行・検証できる設計となっている。なお、記事公開時点でオープン仕様の具体的な規格名や暗号署名の方式は明示されていないが、マルチエージェントのワークフローにおいても各ステップで検証が行われる点が特徴とされている。
「監視カメラ」から「ドアの前の警備員」へ
Dickson Researchのプリンシパルアナリスト、Frank Dickson氏はこの仕組みを端的に評している。
「今日のエージェントガバナンスの多くは監視カメラだ。後から誰かがテープを見返すために何が起きたかを記録する。AI Passportはすべてのドアに立つ警備員だ。」
さらに、サードパーティのエージェントに対する効果を強調する。
「サードパーティのエージェントについては、パスポートがそのエージェント自身の『権限に関する自己申告』を置き換える。エージェントが自分で何を許可されているかを主張することを鵜呑みにするのは、エージェントAIのアキレス腱だ。」
一方で、懸念も明確に示している。
「パスポートは発行元が信頼できて初めて意味を持つ。ここでの発行元はServiceNowのCMDB(構成管理データベース)、GRCポリシー、ワークフロー承認だ。そのデータが古ければ、パスポートも古い。オープン仕様に基づいて構築した点は評価できるが、オープン仕様は他者が採用して初めて意味を持つ。」
Dickson氏によれば、ローンチパートナーはNvidiaのみであり、エンフォースメントの実装はまだ構築中とのことだ(※これはDickson氏のアナリスト見解として元記事に記載されている情報であり、ServiceNow公式の発表内容とは区別される)。
AI Passport、シャドーAI検出、AIコスト管理は年内提供予定とされている。
その他のガバナンス強化機能
AI Passportに加え、ServiceNowはいくつかのガバナンス機能も拡充している。
- シャドーAI検出:ネットワーク上の未承認エージェントを検出
- 400以上のコネクター:複数プラットフォーム・ベンダーをまたいだAIの把握を実現
- アクセスマッピング
- 継続的なエンタープライズAIオブザーバビリティ(可観測性)
- コストガバナンス:消費量・コスト・品質・ユーザー価値を統合した「バリューインテリジェンス」
- ServiceNow IT Asset ManagementのAIコスト管理機能(Control Towerと統合)
EmployeeWorks:エージェント開発を「数日から数分」に
今回の発表はガバナンス機能にとどまらない。同じ発表の一環として、エージェント開発を加速するための新機能群も公開されている。
EmployeeWorksの第3世代では、AIアシスタントへの自動化追加が可能になった。目玉は新しい開発環境ToolSmithだ。
ToolSmithはいわゆる「バイブコーディング」(vibe coding:自然言語で要件を記述するだけでコードやツールを生成するAI支援開発スタイル)環境で、開発者が自然言語で要件を記述するだけでServiceNow EmployeeWorksのAIアシスタント向けツールを構築できる。75,000以上のAPIで学習されており、信頼性とトークン効率に最適化されている。出力は同じ会話インターフェースでテスト・改善でき、ログをスキャンして「次に何を構築すべきか」を自ら提案する機能も備える。
非エンジニアのユーザー向けには、HR業務などに対応したプリビルト済みのプロダクティビティアシスタントも用意されている。
バックグラウンドで繰り返しタスクを自動実行するProductivity Routinesについては、Dickson氏がこう警鐘を鳴らしている。
「Productivity Routinesは、ServiceNowの説明によれば人間の介入なしにバックグラウンドで動く。それは監督なしの作業であり、誰かが責任を持つべきだ。」
業界への示唆
Moor Insights & StrategyのアナリストMelody Brue氏は今回の発表をこう整理している。「AI Passportがアイデンティティと認可スコープを検証可能にし、Control Towerが監視と執行を担い、ToolSmithがエンタープライズのガードレール内でエージェントが活動できるツールとコネクターを拡大する。」
ServiceNowのCEO Bill McDermott氏が同社をセキュリティ企業として位置づけていることを踏まえれば、「エンタープライズの自律性におけるコントロールポイントになろうとする野心がうかがえる」とBrue氏は指摘する。
ただし、Dickson氏の言葉が示す本質的な課題は残る。「見られるメーターはブレーキではない」。エージェントとルーティンすべてに本番稼働前から名前付きオーナーと予算を割り当て、ハードキャップの有無をServiceNowに確認することを同氏は勧めている。
詳細はServiceNow makes it easier to build AI agents, gives them verifiable identitiesを参照していただきたい。