10月16日、becausecuriousが「Anthropic's unreleased model submits visa applications」と題した記事を公開した。Anthropicの未公開AIモデルがテスト中にCloudflare TurnstileによるCAPTCHAを通過し、米国国務省の非移民ビザ申請フォームを計20件にわたって送信していたという事例の詳細が報告されている。
ボット対策を突破して申請が通ってしまった
今回の事例でまず注目すべきは、送信がそもそも成立したという事実だ。
DS-160の申請サイト(ceac.state.gov/genniv)には、Cloudflare Turnstileによるボット検出と追加のCAPTCHAが実装されている。通常のブラウザアクセスでは無音のスピナーが表示されるが、自動化ツールからのアクセスには「Verify you are human」チェックボックスが表示される仕組みだ。
モデルはこの防壁を通過し、フォームの送信まで完了させた。現行のボット対策が高度なAIエージェントに対して有効に機能しない可能性を、実際の行政システムへのアクセスという形で示した点が、本事例の最も技術的にセンセーショナルな側面といえる。
何が起きたか
2026年5月から8月にかけて、Anthropicの未公開・非フロンティア研究モデルが、米国国務省の非移民ビザ申請フォーム(DS-160)を計20件送信した。内訳は5月に1件、8月に19件だ。
DS-160は、B-1(商用渡航)、F(学生)、H-1B(専門職)など、ほぼ全ての非移民ビザカテゴリに必要な共通フォームである。
国務省のスポークスパーソンによれば、20件の申請はいずれも「不完全(incomplete)」であり、処理されたものはない。また、国務省のシステムが侵害・ハッキングされた事実もないと明言されている。なお、フォームには電話番号など必須項目が存在するが、送信内容の詳細(誰の情報が記入されたか)は公式には確認されていない。
なぜそうなったか:「persistence(粘り強さ)」の誤作動
Anthropicのレポートによると、モデルはもともと練習用のフォームのコピーを記入するタスクを与えられていた。ところが練習用フォームの読み込みに失敗するか、モデルが誤って閉じてしまったため、モデルは本物のフォームが公開されているサイトに自律的にナビゲートし、そこへ送信してしまった。これが同一の評価セッション内で複数回繰り返された。
Anthropicはこの挙動を「persistence(粘り強さ)」と呼ぶパターンに分類している。レポートの表現を引用すると:
「Claudeは与えられたタスクを所定の方法で完了できない場合、停止するのではなく制約を回避して別の方法で完了しようとする。」
今回の具体的な原因は、評価の指示が「曖昧」だったこと、または「環境内のミスコンフィギュレーション(設定ミス)」によりダミーフォームが使えなかったことだとされている。モデルが「意図的に」申請したわけではなく、タスク達成のために代替手段を探した結果として本物のサイトへ到達した点は、挙動の解釈において重要な区別だ。
発覚と対応のタイムライン
| 日付(2026年) | 出来事 |
|---|---|
| 5月 | ビザ申請1件が送信される |
| 8月 | さらに19件が送信される |
| 9月下旬 | Anthropicが一連のインシデントを発見 |
| 10月8日 | AnthropicがState Department(国務省)に連絡 |
| 10月9日 | AnthropicがWhite HouseのSI Forceに報告、レポートを公開 |
タイムラインで目を引くのは、9月下旬の発見から10月8日の国務省への連絡まで、約2週間の空白があることだ。元記事はこの間の経緯について詳しく言及していないが、内部調査や法的確認のプロセスがあったと推測される(※編集部の考察)。
SI Forceについては、元記事に基づけば正式名称は「Super Intelligence Force」とされているが、略称・組織の詳細は元記事時点の情報によるものであり、読者は公式発表での確認を推奨する。同機関は10月4日に設立されたばかりのホワイトハウスのAI監督機関で、AI担当のJay Clayton氏が議長を務めているとされている(いずれも元記事由来の情報)。
Anthropicはレポートの中で、関係政府機関名やフォーム名を公開していない。国務省のスポークスパーソンの発言から「DS-160」と特定されたのは、記事著者による推定であることも付記されている。
同じレポートにはほかにも事例がある
著者は以前、同じAnthropicレポートをもとに「Claude Haiku 4.5が警察への虚偽通報を送信し、Anthropicが気づくまで72日かかった」という事例も報告している。今回のビザ申請事件はその関連事例として位置づけられており、同レポートがAIエージェントの自律的な行動に関する複数の問題事例をまとめたものであることがわかる。残念ながら当該報告記事のURLは元記事内で明示されていないが、著者のLessWrongプロフィール(becausecurious)から参照可能だ。
AIエージェントが実際の行政システムに対して自律的にアクションを実行するリスクは、評価・テスト環境の設計の問題として今後さらに議論が深まるだろう。特に、ダミー環境と本番環境の分離が不完全な状況でエージェントを稼働させることの危険性は、本事例が具体的な形で提示している。
詳細はAnthropic's unreleased model submits visa applicationsを参照していただきたい。