2025年10月15日、InfoQが「What 25 Trillion Tokens Reveal About How Developers Actually Adopt AI Agents」と題した記事を公開した。元記事タイトルが掲げる「25兆トークン」はすでに40兆トークン超に達しており、その実データをもとに、開発者がAIエージェントを段階的に信頼しながら導入していくプロセスが詳しく論じられている。
発表者はKilo CodeのデベロッパーリレーションズエンジニアであるBrendan O'Leary氏だ。Kilo Codeは、Claude CodeやCursorに相当するオープンソースのAIコーディングツールで、VS Code拡張・CLI・クラウドエージェントなど複数の形態を持つ。本発表のデータはKiloのゲートウェイインフラを通じて収集された実データであり、タイトルにある「25兆トークン」は発表時点の数字で、記事公開時点ではすでに40兆トークン超に更新されている。
ただし、このデータが「平均的な開発者」を代表しているわけではない点は留意が必要だ。ユーザー層はアーリーアダプターに大きく偏っており、O'Leary氏自身も「12〜18ヶ月後の業界全体の姿を先取りしているデータ」と位置づけている。
「信頼のはしご」:4段階の導入モデル
本発表の核心は、AIツールの導入が「信頼のはしご(Trust Ladder)」を1段ずつ登る形で進むという観察だ。ベンチマークスコアやコンテキストウィンドウのサイズといった「能力の物語」が業界を席巻しているが、O'Leary氏はそれが実際の導入とほぼ無関係だと主張する。
「最高のモデル、最高のベンチマークにアクセスできるチームが、まったく使わないケースを見てきた。一方で、ベンチマーク上は劣るモデルに強く依存しているチームもある。このギャップはランダムではなく、信頼の問題だ。」
はしごの4段は以下の通りだ:
1段目:オートコンプリート
タブキーで補完を受け入れるだけ。フィードバックループは即時で、失敗コストはほぼゼロ。信頼の閾値は最も低い。
2段目:チャット
コードブロックを要求したり、レビュー中に説明を求めたりする。かつてStack OverflowからコードをコピペしていたのがAIに変わった形。フィードバックは秒〜分単位で、まだタイトだ。
3段目:エージェント
ファイルの読み書きやコマンド実行をAIが自律的に行う。コーヒーを取りに行っている間に処理が進むが、誤ったファイルパスを操作されるとビルドが壊れるリスクもある。信頼の閾値は大きく跳ね上がる。
4段目:マルチエージェントオーケストレーション
設計を渡せば複数のエージェントがタスクを分解・並列処理し、結果を統合して返す。フィードバックループは数分〜数時間に及ぶ。何か問題が起きても、気づくまでに時間がかかる。
重要な非対称性がある。信頼の閾値が高い上位の段ほど、フィードバックが遅く・希薄になる。つまり、最も確証が得にくい場面で最も高い信頼を要求される構造だ。
どこで導入は失敗するか
GartnerのデータではAIプロジェクトの大半が本番到達前に失敗すると報告されているが、O'Leary氏はその理由を「はしごを飛ばしたから」と見る。QConでマルチエージェントの発表を聞いて即座にそこへ飛びつくが、チャット段階での筋トレをしていないため、ハルシネーションへの対処法も障害パターンの理解もない。Gartnerが「ガバナンスの欠如」と表現しているものの実態は、「信頼を獲得するための設計をしていなかった」ということだ。
O'Leary氏は導入が予測可能な形で破綻する技術的ポイントを3つ挙げている:
- コンテキスト構築:AIに渡すコンテキストの設計
- モデルルーティング:タスクに応じて適切なモデルを選ぶ仕組み(OpenRouterのような複数モデルへのゲートウェイが実務でよく使われる)
- フィードバックループ:どのようなシグナルをどう設計するか
上位の段に行くほどこのフィードバックシグナルは希薄・遅延し、設計難度が上がる。
データが示す実態
Kilo Codeのユーザー層は、OpenRouterが公開するトークン使用ランキングで長期間トップクラスに位置していた。今日のトークン消費の主要ユースケースが開発者の生産性向上であることは、こうした公開データからも裏付けられている。
O'Leary氏が強調するのは、このデータが持つ「先行指標」としての性格だ。アーリーアダプター層の行動パターンは、12〜18ヶ月後に業界全体が辿る軌跡を示している可能性がある。そして実データが示す導入の実態は、「ベンチマーク最強モデルを即座に最大限活用する」という理想像とはかけ離れており、段階的な信頼の積み上げを経て初めて上位の段に到達できるというものだ。
O'Leary氏はさらに、コーディングエージェントの領域で得られた知見は、AIを使って生産性向上を図る他のナレッジワーカー全般に応用できると主張する。「ソフトウェアエンジニアという知識労働者が辿った道筋は、他のドメインでのAI導入にとって有効な先例になる」というのがその根拠だ。コーディングという領域は、フィードバックループの設計が比較的明確で測定しやすいため、信頼構築のモデルケースとして他分野への示唆を持ちやすい。
信頼は「感覚」だけではない
「信頼」というと主観的な概念に聞こえるが、O'Leary氏は測定可能な指標として設計できると主張する。はしごの段によって信頼の測り方は異なり、高い段ほどシグナルが疎・遅延するため、それに合わせたフィードバックループの設計が必要になる。
具体的には、1段目・2段目ではユーザーのインタラクション頻度や補完の受け入れ率といった即時シグナルが使えるが、3段目・4段目ではビルド成功率・テスト通過率・障害発生から検知までのリードタイムといった、より粒度の粗い指標に頼らざるを得ない。この「シグナル設計の難化」こそが、上位段への移行を難しくしている構造的な要因であり、AIエージェントを構築・展開するチームへの設計上の示唆でもある。
AIエージェントのアーキテクチャ設計に関するInfoQの関連記事も併せて参照すると、本発表の文脈をより深く理解できるだろう。
詳細はWhat 25 Trillion Tokens Reveal About How Developers Actually Adopt AI Agentsを参照していただきたい。