10月12日、The Decoderが「White House reverses course and restores UK AI Safety Institute's access to frontier models」と題した記事を公開した。この記事では、一度はフロンティアモデルへのアクセスを遮断された英国AI安全機関(AISI)が、外交的圧力を経てアクセスを回復したことを詳しく報じている。
ホワイトハウスが方針を転換、英国AISIのモデルアクセスを復元
ホワイトハウスが、英国のAI安全機関(AISI: AI Safety Institute)に対してフロンティアモデルへのアクセスを再び認める方針に転じた。The Daily Telegraphが報じた。
AISIは、AIシステムのリリース前に安全リスクを評価する機関だ。今回の方針転換により、Anthropic、Google DeepMind、OpenAIの最新モデルに対する早期アクセスが再び得られることになった。
フロンティアモデルとは、現時点で最も高い性能・能力を持つ大規模AIモデルを指す業界用語で、GPT-4oやClaude 3.5 Sonnetなどが代表例として挙げられる。これらのモデルは公開前にAISIのような機関によって安全性の観点から評価されることがあり、その評価結果がリリース判断や安全策の整備に活用される。
AISIの設立背景と国際的な位置づけ
英国AISIは、2023年11月に開催されたブレッチリーサミット(AI Safety Summit)を契機に設立された機関だ。同サミットは英国政府が主導し、AI開発の最前線に立つ企業や各国政府が一堂に会してフロンティアAIのリスクについて議論した。その成果の一つとして、英国はいち早く国家レベルのAI安全評価機関を設けた。
その後、米国も2024年に独自のAI Safety Institute(US AISI)を商務省傘下に設立し、英米両機関は互いに連携しながらフロンティアモデルの評価手法を共同開発してきた経緯がある。今回の一時遮断は、その協調体制を政治的判断が揺さぶった事例として注目される。
9月の遮断から約1カ月で覆った決定
経緯はこうだ。9月、トランプ政権はOpenAIやAnthropicに対し、英国のテスターへのモデル共有を停止するよう指示していた。これを受けて各社はAISIによる新モデルへのアクセスを制限した。
その後、英国のAI担当大臣カニシュカ・ナラヤン(Kanishka Narayan)が外交的圧力をかけた結果、アクセス制限が解除された。
ナラヤン大臣は近日中の演説で新たなAI安全措置を発表する予定で、その中には重要インフラに関わるAIセキュリティインシデントへの報告義務の強化も含まれる見通しだ。
米英間のAI規制をめぐる温度差
この問題は、AI安全評価の国際的枠組みをめぐる米英間の緊張を浮き彫りにする。
英国側は国連総会においてAIの国際的規制を訴えていた。一方、トランプ大統領は同じ場で「グローバリスト」組織が米国のAI開発に介入すべきでないと警告している。
AI規制に対する両国の温度差は以下のように整理できる。
| 観点 | 英国 | トランプ政権 |
|---|---|---|
| フロンティアモデルの事前評価 | 国際協調のもと推進 | 自国企業への関与制限を優先 |
| 国際的な安全基準 | 積極的に主導 | 「グローバリスト的介入」と批判 |
| AISIへのアクセス | 維持・拡充を求める | 一時停止を指示(その後撤回) |
安全保障の観点からは、MI6・MI5・GCHQのトップがいずれも、AIが敵対勢力やテロリストの能力を底上げしていると閣僚に警告していた。こうした情報機関側の懸念が、英国政府が外交的に強く押し返した背景の一つとして読み取れる。
AI安全評価の実効性と政治リスク
今回の方針転換は、安全評価の国際協調をトランプ政権が一時的に断ち切ろうとした動きが、外交的に押し返された形だ。
AISIのような機関がフロンティアモデルに対してプレリリース評価を行えるかどうかは、AI安全研究の実効性に直結する問題だ。モデルへのアクセスが失われれば、独立した第三者機関による検証そのものが成立しない。その枠組みが政治的判断によって左右されやすいことが、改めて示された出来事といえる。
英米のAI安全機関がこれまで築いてきた協調関係が今後どう維持・発展するかは、グローバルなAIガバナンスの行方を占う上でも重要な指標となる。
詳細はWhite House reverses course and restores UK AI Safety Institute's access to frontier modelsを参照していただきたい。