10月12日、Dataconomyが「Microsoft president says AI faces fewer safety rules than washing machines」と題した記事を公開した。MicrosoftのBrad Smith社長がITVのインタビューで放った「あなたの洗濯機はAIより多くの安全規制を受けている」という一言が、AI規制をめぐる国際的な議論に波紋を広げている。企業や政府をハッキングできる能力を持つテクノロジーが、白物家電や食品以下の安全基準しか課されていないという現実を、Microsoftの首脳自らが公言した点は重い。
「洗濯機より規制が少ない」
Smith社長の言葉は、AI規制の現状をシンプルかつ鋭く突いている。
「今この瞬間、あなたの洗濯機はAIより多くの安全規制を受けている。スーパーに並ぶ牛乳パックでさえ、安全基準と検査の対象だ」
Smithが問題にしているのは、AIが企業や政府のシステムをハッキングできるほどの能力を持つにもかかわらず、消費者向け製品に課されるような安全ルールが存在しないという非対称性だ。電化製品や食品には当然とされる規制の網が、より影響範囲の広いテクノロジーには及んでいない。この発言はAI開発の当事者であるMicrosoftのトップから出た点で、単なる外部批評とは重みが異なる。
米国の方針と業界の「自主規制」
米国政府の動きは対照的だ。トランプ大統領はAI開発を中国に対して遅らせることなく加速させる立場を取り、政府による規制より業界の自主規制を優先している。
元記事によれば、「Super Intelligence Summit」と呼ばれる場において、GoogleのSundar Pichai、AnthropicのDario Amodei、Mark Zuckerberg、OpenAIのGreg Brockman、Elon Musk、NVIDIAのJensen Huangが自主規制に関する協定に署名した。その主な内容は以下の3点だ。
- 自主規制の支持
- フロンティアモデル(最先端の大規模AIモデル)の制御不能リスクへの安全措置
- 「独立した監査人」による評価
ただし、この協定への批判も出ている。BBCの取材に対し、ある批評家は「各社が"安全"の定義を自分たちで決められる」と指摘した。別の批評家は「この協定は本質的な議論から目をそらすためのものであり、無視すべきだ」と言い切った。政府が関与しない枠組みで企業が安全基準を自己定義することへの懸念は根強い。
なお、AnthropicとOpenAI、GoogleのDeepMindはAI開発を一定程度慎重に進めることを支持しており、全面加速路線とは温度差がある点も元記事は指摘している。
英国主導の規制整備への期待
Smith社長はITVのインタビューのなかで、英国がAI規制においてユニークな立場を持てると主張した。その根拠として挙げたのが、ワシントンが英国をEU(ブリュッセル)とは異なる目線で見ているという点だ。EUはすでにAI Actを施行し、リスクベースの包括的な規制体系を整えつつあるが、米国との関係において英国はより柔軟な協力関係を築ける立場にあるとSmithは見ている。
そのうえでSmithは、Microsoftと英国が協力して規制のリードを担える可能性に具体的な期待を示した。元記事によれば、Smithはこのような強力なAIモデルに対して世界が規制で対応する「時は来ている」と述べ、英国がその主導役になりうると論じた。
「世界のサイバーセキュリティをリスクにさらすほど強力なモデルを前にして、私は言いたい:その時は来ている」
ただし元記事では、Smithが英国との協力において具体的にどのような枠組みや制度設計を想定しているかまでは詳述されていない。「期待を示した」という段階にとどまり、MicrosoftとUK政府間で何らかの合意や協議が進んでいるかどうかは現時点では明らかでない点は留意が必要だ。
AI規制の地政学:EU・米国・英国の三極構造
AI規制の議論は現在、大きく三極に分断されつつある。EUがリスクベースの法規制を先行させ、米国が業界主導の自主規制を優先するなか、英国はその狭間で独自のポジションを模索している。
Smithの発言はこの構図を踏まえたうえでのものであり、英国がEUの厳格さと米国の柔軟さの中間的なモデルを提示できるという見立てに基づいている。AI規制が国際的な技術覇権競争とも絡み合う現在、英国がどのような枠組みを選択するかは、グローバルなAIガバナンスの方向性に影響を与えうる局面だ。
詳細はMicrosoft president says AI faces fewer safety rules than washing machinesを参照していただきたい。