10月13日、PYMNTSが「Banks Stop Counting AI Hours and Start Counting Returns」と題した記事を公開した。銀行業界がAI活用の評価軸を「利用時間」から「財務リターン」へと移行しつつある動向について詳しく紹介されており、Bank of Americaが4億ドルの投資で8億ドルの便益を生み出しているという具体的な数字が注目を集めている。
「AI導入時間」の計測から「ROI」の計測へ
長年、銀行はAI活用の成果を「何時間節約したか」「何件処理したか」という指標で投資家に説明してきた。しかし、具体的な収益貢献額を決算説明会で語る事例は少なかった。その状況が変わりつつある。
Bank of Americaのブライアン・モイニハンCEOは、9月14日のバークレイズ・グローバル・ファイナンシャル・サービス・カンファレンスで、同行が130〜140件のAIプロジェクトを「4億ドルのコストで運営し、8億ドルの便益を生み出している」と述べた(Fortuneが報道)。なお、この数字については対象期間・単年か累積かが元記事でも明示されておらず、文脈上の限界がある点に注意が必要だ。いずれにせよ、投資対効果として2倍という水準を経営トップが公開の場で明言した意義は大きい。さらに、翌年にはAI予算を倍増させる計画も示した。同行のテクノロジー予算は年間135億ドルで、そのうちAIを含む新技術投資に40億ドルを充てている。
Bank of Americaの具体的な成果
リターンが最も明確に現れているのは顧客サービス領域だ。
同行の仮想アシスタント「Erica」は第2四半期に2,460万人のアクティブユーザーを抱え、Ericaがなければ顧客電話対応にさらに1万1,000人の人員が必要になると、最高技術・情報責任者のハリ・ゴパルクリシュナン氏はFortunに語っている。
また、1万8,000人以上のカスタマーサービス担当者が使う生成AIツール「EricaAssist」は、平均通話時間を約1分短縮している。一見地味な数字に見えるが、1万8,000人規模のオペレーターが毎日こなす通話件数に掛け合わせると、組織全体での積み上げ効果は相当な規模になる。
社内での展開も進んでおり、7月時点でAIユースケースを約300件承認し、100件以上を実際に展開済みだ。
欧州銀行も数値目標を明示
欧州の大手行も、AI投資に対して具体的な財務目標を設定し始めている。なお、以下のユーロ→円換算は執筆時点のレートに基づく概算であり、参照・検証の際は換算日を確認されたい。
Société Générale(ソシエテ・ジェネラル)は、2026〜2029年の戦略計画で約19億ユーロ(約2,900億円相当)のコスト削減を掲げ、そのうち最大6億ユーロ(約920億円相当)をAIで創出するとしている。また、AI導入加速に向けてAnthropic(アンソロピック)と戦略的提携を締結した。コスト収益比率を2029年に55%以下へ引き下げることも目標に含まれる。コスト削減の達成手段としてAIを明示的に位置づけている点が、従来の「デジタル化投資」との語り方との違いだ。
Commerzbank(コメルツバンク)は、2026〜2030年の戦略「Momentum 2030」の中で、AIに約6億ユーロを投資すると表明。AIによってスタッフのキャパシティを約10%解放・再配置し、営業チームが顧客対応に集中できる体制を目指す。ベティナ・オルロップCEOは株主総会でAIを「変革の主要ドライバー」と位置づけており、2030年までに年間約3億5,000万ユーロ(約540億円相当)のコスト削減を見込む。コスト収益比率の目標は2030年に43%だ。
大企業の90%が何らかのリターンを報告
銀行セクターに限らず、AI投資のROI計測は大企業全体で広がっている。
PYMNTSインテリジェンスが売上高10億ドル以上の米国企業のシニア技術幹部60人を対象に実施した調査「The Enterprise AI Payback Curve」によると、大企業の90〜100%が何らかのリターンを報告している一方、完全な投資回収まで至った企業は5〜10%にとどまる。全業種の半数以上が、完全回収には5〜6年かかると見込んでいる。
この数字が示すのは、「AIで成果が出ている」と「AIの投資を完全に回収した」の間には依然として大きなギャップがあるという現実だ。多くの企業が部分的なリターンを確認しながらも、長期的な回収サイクルを前提に投資を続けている構図が浮かぶ。Bank of Americaの「投資対効果2倍」という数字が業界内で際立って見える背景には、こうした全体像がある。
CFO(最高財務責任者)の視点でも、AI評価の財務化が進んでいる。売上高10億ドル以上の米国企業のCFOのうち、75%がマージン改善でAIリターンを測定し、60%が営業コスト削減で評価している。「顧客一人あたりの収益向上」を指標とするCFOの割合は、2025年7月の18.3%から56.7%へと急増している(PYMNTSインテリジェンス「What Happens When CFOs Get Serious About Gen AI」より)。この急増は、AIの評価が現場の効率指標から経営層の財務指標へと本格的に移行したことを示す数字として読める。
「AI時間を節約しました」から「AIで利益を出しました」へ。銀行のAI語りが変わったことは、導入フェーズから収益化フェーズへの移行を示している。Bank of Americaの投資対効果2倍(4億ドル投資→8億ドル便益)という数字は、期間や累積・単年の区別が明示されていないという留保はあるものの、業界全体の議論の基準線になりうる。
詳細はBanks Stop Counting AI Hours and Start Counting Returnsを参照していただきたい。