10月12日、Mary K. Prattが「AI spending shifts beyond IT, testing CIO-CFO decision rights」と題した記事を公開した。企業のAI支出がIT部門の予算を超えて拡大する中、CIOとCFOの意思決定権限がどう再編されつつあるかについて詳しく論じている。
企業のAI支出のうち80%がIT予算の「外」に出ている——この数字は、従来の「AIはIT部門が管理するもの」という前提を根底から崩す。予算を出す主体がIT部門でなくなった今、誰がAIへの投資を承認し、誰がその成否に責任を負うのか。CIOとCFOの権限の境界線が曖昧になりつつある組織では、この問いへの答えが出ていないまま混乱が生じている。本記事はその構造的な問題と、先行企業が採用しつつある解決策を整理する。
AI支出の80%がIT予算の「外」にある
Boston Consulting Group(BCG)が1,300人超のCxOおよびシニアリーダーを対象に実施した調査によれば、企業のAI支出は1年で2倍に増加し、売上高の3.3%に達した。そのうち80%がエンタープライズITの予算外に位置している。
この数字が示す構造的な問題は単純だ。AIの「実装・運用責任」は依然としてCIOとIT部門が担う一方で、「カネを出す主体」がIT部門ではなくなってきている。責任と予算の乖離が、組織内の権限争いを生んでいる。
CFOの関与も急速に拡大している。IBM Institute for Business ValueがOxford Economicsと共同で実施した調査では、1,500人のCFOや同等クラスのシニア財務リーダーのうち62%が「エンタープライズテクノロジーまたはAI戦略のリーダーシップを担うようになった」と回答。**56%がポートフォリオ管理や資本再配分の権限強化を、54%**がビジネスモデルや成長戦略設計への関与拡大を報告している。
XeroはAI意思決定を一元化し、コストは分割する
会計ソフトウェアのXeroが採用しているのは、意思決定の集中とコスト負担の分散を組み合わせたモデルだ。
CFOのClaire Bramleyは、2026年初頭に経営陣がAIの意思決定と監督を一元化することを決定したと説明する。この中央リーダーシップチームにはBramley自身のほか、最高法務責任者、グローバル最高戦略責任者らが含まれ、CIO(Fred Laury)が率いるエンタープライズテクノロジー部門もBramleyの管轄下に置かれている。
「AIへの投資とビジネス価値の関係をどう考えるか、どのAIツールを提供するかの決定は、すべてエンタープライズ全体で議論すべきだ。CFOやCIOが単独で決めるべき話ではない」—Claire Bramley(Xero CFO)
AIプラットフォームの選定も中央化されており、各部門が独自のプラットフォームを選ぶのではなく、全社共通プラットフォームを使う方針とした。Bramleyはこれを「最も効率的かつ効果的な使い方」と判断した理由として挙げている。各部門は固有のニーズに応じて追加のAI機能をリクエストできる。
コスト負担の仕組みはユニークだ。AIの消費コストを2つの予算に分割している:
- 製品・テクノロジーチーム:エンジニアのAI消費コストを負担(エンジニアはAI利用頻度が高いため、より高い一人あたりコストが設定されている)
- IT部門:非エンジニア社員の消費コストと、AIプロダクトのライセンスコストを負担
また、非エンジニア社員が必要以上に高性能(高コスト)なAIモデルを使っているケースが発覚したため、デフォルトをより低コストのモデルに変更するなど、中央チームによる継続的なモニタリングと調整が行われている。
業務部門を横断してAI消費コストを配分する案も検討されたが、「複雑さが増すだけで利益がない」として採用されなかった。
「P&Lを持つ者がAIを持つ」というKearney流の原則
グローバル戦略コンサルティングファームKearneyのパートナーであるKhalid Khanは、より明快な原則を示している。
「AIが意味のあるP&L(損益)インパクトをもたらすなら、P&Lを持つリーダーがその変革を担うべきだ」—Khalid Khan(Kearney)
ここで言うP&L(Profit & Loss、損益計算)とは、ある事業・部門の収益と費用を管理する責任を指す。P&Lオーナーはコストだけでなく、そのコストが生む収益成果にも責任を持つ立場であり、Khanの論点は「AIが業績に直結するなら、業績責任者が主導すべき」という意味だ。
Khanによれば、役割分担は次のように整理される:
- ビジネス・機能リーダー:目指すアウトカム、業務変革、導入推進、実現したビジネス成果への責任を持つ
- CFO:資本配分を決定し、価値の妥当性を検証。スケール拡大・方向転換・資金停止の意思決定を支援する
- CIO:アーキテクチャ、インテグレーション、共有技術基盤を担い、セキュリティ・データ・リスクのリーダーと連携してデプロイ要件を設定する
Khanはまた、AIを「企業全体の損益にまたがる価値創出のレバー」と位置づけており、予算が「変革を起こせる権限と責任を持つリーダー」に移ることが、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益。企業の事業そのものが生み出すキャッシュ創出力を示す指標)への実質的な貢献につながると述べた。
CIOとCFOは「対立」から「協働」へ
Freshworks(企業向けSaaSソフトウェア)のCIOであるAshwin Ballalも同様の見方を取る。Freshworksは顧客サポートや社内IT管理向けのSaaSプロダクトを展開しており、自社でもAIを活用した業務改善を推進する立場にある。
「ビジネスチームが解くべき問題と期待するアウトカムを持つべきだが、分散した導入が分散した責任を意味してはならない」—Ashwin Ballal(Freshworks CIO)
Ballalは意思決定権限の整理を次のように表現している:
- ビジネスリーダー:解決すべき問題と期待する成果を持つ
- CIO:アーキテクチャ、インテグレーション、データ、セキュリティ、ガバナンスを含む技術フレームワークを担う
- CFO:投資が実際に価値を生んでいるかを判断する
特にBallalが強調するのは「分散した導入が分散した責任に直結しない設計」の必要性だ。各事業部門がそれぞれAIツールを導入すること自体は避けられないとしても、ガバナンスとアカウンタビリティの構造は中央で統一すべきという立場である。この点はXeroのBramleyが示したモデルとも一致しており、先行企業に共通する原則として浮かび上がる。
BCGのレポート「The Formula for Agentic AI Value」も、AIの意思決定を単一の一貫したプログラムに集約し、C-suiteが責任を持つことを「future-built companies」の特徴として挙げている。なお、エージェンティックAI(Agentic AI)とは、人間の逐次的な指示を待たずに自律的に目標を設定・実行・修正できるAIシステムの総称で、従来の生成AIより広範な業務プロセスへの影響を持つため、ガバナンス設計の重要性が一層高まっている。
Khanはこう締めくくっている。「AIからの価値は、より連携した企業から生まれる。資金調達モデルはその変化を反映し始めている」。
詳細はAI spending shifts beyond IT, testing CIO-CFO decision rightsを参照していただきたい。