10月12日、TechStartupsが「Amazon in talks to acquire AI startup Decart for $7 billion as AI computing race heats up」と題した記事を公開した。この記事では、AmazonがNvidia出資のAIスタートアップDecartを約70億ドルで買収交渉中であることが詳しく報告されている。
AmazonがDecartに70億ドルの買収交渉
Wall Street Journalの報道によれば、AmazonはDecartとの買収交渉が「advanced discussions(大詰め)」の段階にある。取引は未確定で、別の買い手が現れる可能性も残っているという。
Decartは2023年創業、サンフランシスコに拠点を置くスタートアップだ。イスラエル人エンジニアのDean LeitersdorfとOrian Leitersdorf兄弟、Moshe Shalevが共同創業した。
同社が解くのは、AI業界が抱える重要な課題のひとつ——異なるチップ間でAIワークロードを移植する際の煩雑さだ。通常、NvidiaのGPU向けに最適化されたAIモデルを別メーカーのチップで動かすには、専門的なエンジニアリングが必要になる。Decartが開発したDOS(Decart Optimization Stack)は、そのソフトウェアレイヤーを抽象化し、チップを問わずAIモデルを動かせるようにする。DOSはチップ間移植の複雑さを隠蔽するだけでなく、各ハードウェアアーキテクチャに応じた推論効率の最適化も担うとされており、単なる互換レイヤーにとどまらない技術基盤として評価されている。
なぜAmazonはDecartを欲しがるのか
AWSは自社AI向けチップ「Trainium」の開発に多額の投資をしている。しかしNvidiaのGPUエコシステムに依存してきた開発者にとって、Trainiumへの乗り換えコストは高い。Decartの技術はそのハードルを下げ、AWSのTrainiumをより魅力的な選択肢にする。
実際、AmazonとDecartはすでに協力関係にある。Journalによれば、AmazonはDecartに対して2025年にTrainium3チップへの早期アクセスを提供していた。TechStartupsが2025年12月に報じた通り、両社はAWSのTrainiumを使ったAIモデルのトレーニングと推論で提携している。
Nvidiaが出資した会社をAmazonが買収する皮肉
注目すべき構図がある。DecartにはNvidiaも出資している。
2025年5月、DecartはRadical Ventures主導で3億ドルの資金調達を実施し、そのラウンドにNvidiaが新規投資家として参加した。PitchBookのデータによれば、この時点での評価額は約40億ドル。70億ドルでの買収となれば、その評価額に対して約75%のプレミアムを乗せた計算になる。
AmazonがNvidiaに対抗すべくTrainiumを育てようとしている一方で、Nvidia自身が出資するスタートアップを買収しようとしている——というのが現在の状況だ。
Anthropicも先に検討していた
今回のAmazonだけでなく、Anthropic(Claudeの開発元)も8月に約60億ドルでのDecart買収を検討したとBloombergが報じている。ただし、この報道はTechStartupsがBloombergの報道を引用する形で伝えたものであり、Bloombergが直接取材・報道した内容を元記事が孫引きしている点には留意が必要だ。いずれにせよ、AnthropicはデューデリジェンスのうえでDecart買収を見送ったとされており、その判断がAmazonに機会を作った形だ。
Decartが手がける技術
Decartはチップ最適化ソフトウェア以外にも、生成AIの領域でプロダクトを開発している。
- Lucy: ライブ映像をリアルタイムで変換するAIモデル。カメラ映像や動画ストリームに対してスタイル変換や視覚的加工をリアルタイムで施す技術で、ライブ配信やクリエイティブ制作ツールへの応用が想定されている。
- Oasis: インタラクティブなシミュレーション環境をAIが生成するシステム。ゲームエンジンを介さずにゲームライクな環境をリアルタイムで生成・操作できる点が特徴で、ゲーム開発やロボティクス研究、シミュレーションベースの強化学習への活用が見込まれている。
いずれもリアルタイム処理性能が要求される領域であり、DOSが担う推論効率の最適化と密接に関わる製品群と言える。
AI基盤競争の構造変化
今回の報道が示すのは、AI競争の主戦場が「より大きなモデルを作る」ことから「AIをより安く・効率よく動かす」ことへとシフトしているという事実だ。
MicrosoftやGoogleとクラウド市場でしのぎを削るAWSにとって、Decartの買収はTrainiumの普及を後押しするだけでなく、チップメーカーに依存しない柔軟なAI基盤を開発者に提供する手段になり得る。
70億ドルという数字はまだ報道ベースの可能性に過ぎないが、交渉の存在そのものが、AI計算コストの削減技術がいかに高く評価されているかを示している。
詳細はAmazon in talks to acquire AI startup Decart for $7 billion as AI computing race heats upを参照していただきたい。