10月10日、madrobot.blogが「Apple strikes a deal to hire the ex-NotebookLM team behind AI audio app Huxe」と題した記事を公開した。GoogleのNotebookLM開発チーム出身者が創業したAI音声スタートアップHuxeがサービスを終了してからわずか2週間以内に、Appleはそのチームをアクハイヤーする契約を締結していた。Appleは公式声明を一切出しておらず、この事実はEUの規制報告から浮かび上がった。
EUの報告義務で発覚した買収案件
この契約が明らかになったのは、EU「デジタル市場法(DMA)」の規定によるものだ。同法は大手テック企業(ゲートキーパー)に対し、一定の買収・提携案件を欧州委員会に報告することを義務付けており、Appleも対象となっている。契約の締結日は2026年6月9日。欧州委員会の案件リストに掲載されたのは10月9日で、Appleは現時点で公式のアナウンスも声明も出していない。
申請書類によれば、Appleは「Huxe AI, Inc.の特定の従業員に雇用オファーを行い、採用する権利」および「HuxeのIPに対する非独占的ライセンス」を取得する。買収ではなくアクハイヤー(acqui-hire)の形式であり、Huxe自体はAppleに売却されない。非独占ライセンスのため、理論上はHuxeが同じ技術を第三者にライセンスすることも可能だ。価格、採用人数、技術の用途はいずれも開示されていない。
NotebookLMを作ったチームの次の挑戦
Huxeの共同創業者3人は、GoogleのAIメモツールNotebookLMの立ち上げ期から携わった人物だ。
- Raiza Martin:NotebookLMのプロダクトマネージャー
- Jason Spielman:デザイナー
- Stephen Hughes:エンジニア
NotebookLMは2024年に「Audio Overviews」機能で話題を集めた。ユーザーがアップロードした文書を、2人のAIホストによるポッドキャスト風の会話に変換するもので、Googleにとって予想外のヒットとなった機能だ。
3人は2024年12月にGoogleを退社。法人向けチャットボットを試みたのち消費者向けにピボットし、2025年6月に招待制でHuxeを公開した。
Martinはローンチ時の公式ブログでこう書いている。
We're still making people do all the work. Upload your docs. Find your sources. Curate your content. What about everything you don't even know you should be tracking?
— Raiza Martin, Huxe共同創業者
大学に行かず、カスタマーサポートからGoogleのPMに上り詰めたというMartinは、Huxeを「あなただけのためのラジオ」と形容している。
Huxeが実現しようとしたこと
Huxeは2025年9月23日にiOS・Android向けに一般公開された。同時に、Conviction、Genius Ventures、FigmaのCEO Dylan Field、GoogleのチーフサイエンティストJeff Deanらから460万ドルの資金調達も発表している。
アプリの主な機能は3つだった。
- モーニングブリーフィング:ユーザーのメールやカレンダーをもとに数分間の音声サマリーを生成
- オンデマンドポッドキャスト:任意の質問をAIホスト2名による対話形式で掘り下げ、リスナーが割り込んで詳細を聞いたり説明を変えたりできる
- ライブステーション:競合他社、株ポートフォリオ、スポーツチームなどのトピックを継続的に追跡し、状況の変化に応じて新しい音声コンテンツを自動生成
ただし、公開からわずか2日後にOpenAIが同様の機能を持つ「ChatGPT Pulse」を発表した(※元記事に基づく情報)。MartinはXで「UX、バナー、タグライン、コンセプト全体に至るまで似ている」と指摘しつつ、「ポジティブな検証だ」と皮肉交じりに切り返した。
サービス終了からAppleの契約まで2週間
Huxeは2026年5月21日にサービス終了を告知。同月28日にサービスを停止し、29日にはユーザーデータを削除した。理由は明かされていない。Spotify、Amazon、Meta、ElevenLabs、そしてGoogleまでもが類似のAI音声機能を提供しており、競争環境は急速に激化していた。
Appleの契約はサービス終了からわずか2週間以内に締結されている。
SiriとAirPodsへの布石か
メールやカレンダーから音声ブリーフィングを生成するというHuxeの中核機能は、SiriやAirPodsとの親和性が高い。Appleがこのチームをどのプロジェクトにアサインするかは明らかにされていないが、AI競争でAppleが遅れをとっているという状況を踏まえれば、GoogleのNotebookLMを実質的に作ったチームを取り込む意図は読み取れる。
Appleは今年、プラズマシミュレーション企業PlasmaSolve(4月)、磁気センサーチップ開発のSonera(5月)といった小規模案件も同リストに報告しているが、AIに直接関わるのはHuxeのみだ。
詳細はApple strikes a deal to hire the ex-NotebookLM team behind AI audio app Huxeを参照していただきたい。