10月11日、The Next Webが「UK can't rely on AI that could be switched off, says Turing head」と題した記事を公開した。英国のアラン・チューリング研究所長が「外国製AIはいつスイッチを切られるかわからない」として、国産AI——いわゆるsovereign AI(主権AI:自国が制御・運用できるAI基盤)——の必要性を訴えている。
「スイッチを切られるかもしれないAI」への依存リスク
アラン・チューリング研究所の所長、George Williamsonは、英国が外国製AIに依存することへの危険性を明確に指摘した。
「私たちは、検査も制御もできないシステム、あるいは制限されたり、スイッチを切られたりする可能性があるシステムにのみ依存すべきではない」
この発言が現実的な重みを持つのは、直近の出来事があるからだ。2025年6月、米国政府はAnthropicのトップモデルへの外国からのアクセスを一時的に遮断した(関連記事)。政策判断ひとつで、外国のAIサービスへのアクセスが突然失われるという事態が実際に起きている。
Williamsonはこれを踏まえて言う。
「政治的・商業的な圧力によって、必要なときにアクセスできない状況が生じる可能性がある」
国防、国家安全保障、重要インフラ、医療——これらの分野にはすでにAIが組み込まれている。そのAIが外国企業の判断で突然使えなくなる事態は、単なるサービス障害ではなく、国家機能への直撃となる。依存先が米国であれ中国であれ、「他国の意思決定に国家の基幹インフラが左右される」という構造的リスクは同じだ。
「フロンティアラボの真似をしなくていい」
Williamsonが提唱するのは、OpenAIやAnthropicのような大規模モデルの開発競争に加わることではない。
「フロンティアラボがやっていることをコピーしようとせずとも、野心的でいられる」
アラン・チューリング研究所は大手AIラボの予算規模には及ばない。だが、スタートアップ向けの小規模な国産モデルを構築することは可能だと述べた。「誰かの許可なく使えるAI」を英国が持つべきという主張だ。
規模で勝負するのではなく、国家が主権的に制御できる範囲のモデルを着実に整備する——この現実的な路線は、巨大ラボとの正面衝突を避けながら自立性を確保するアプローチとして注目に値する。
研究所の新方針:「国家レジリエンス」へ転換
Williamsonは2025年にアラン・チューリング研究所のトップに就任した。前職は英国のスパイ機関向けに機器を開発する政府部門の責任者であり、その経歴が今回の方向性に色濃く反映されている。
研究所の主要資金提供者である政府は、方針転換を要求していた。Williamsonはこれに応じる形で、「national resilience(国家レジリエンス)」を研究所の中心テーマに据えた。具体的には、重要システムの防護や、国家が関与するとされる偽情報の検出などが対象となる。
従来のアラン・チューリング研究所は、基礎研究や学術連携に重きを置いた機関として知られていた。それが安全保障・レジリエンス寄りの実用路線へとシフトしつつあるという変化は、英国のAI政策全体の方向感とも連動している。
AIの「人類滅亡リスク」には懐疑的
国家レジリエンスや主権AIという「足元の現実的リスク」を重視するWilliamsonの立場は、AI業界内で語られる長期的・実存的リスク論とは対照的でもある。
AI業界の一部が主張する「AIが人類を滅亡させる」というリスク論に対し、Williamsonは懐疑的な姿勢を示した。業界内で語られるパーセンテージ(滅亡確率など)について、「説得力のある根拠を見ていない」と述べている。
つまり彼の関心は、遠い将来の実存的リスクよりも、今この瞬間に外国のスイッチひとつで止まりうる国家インフラの脆弱性にある。この優先順位の置き方が、今回の主権AI推進論の根底にある。
欧州全体で広がる「AI自立」論
この動きは英国だけではない。欧州中央銀行(ECB)のChristine Lagarde総裁も、欧州が米国・中国のAIから切り離されるリスクを警告している。米国のビッグテックへの依存を前提にした現状のAI戦略に対し、欧州各国が自立路線を模索し始めているという構図だ。
英国はEU離脱後も欧州の地政学的現実の中に置かれている。外国製AIへの依存リスクという問題意識は、英国固有のものではなく、大西洋を挟んだ西側諸国が共通して直面しつつある課題といえる。
詳細はUK can't rely on AI that could be switched off, says Turing headを参照していただきたい。