10月10日、The Next Webが「Goldman's Marco Argenti: 'How do you make money because of AI?'」と題した記事を公開した。Goldman SachsのCIOであるMarco Argentiが語ったのは、AIエージェントの普及によって開発者の役割が本質的に変容しつつあるという現実だ。コードを直接書くことよりも、AIに仕事を委譲し成果を監督するスキルが問われるようになる——そう断言できる根拠として、Argentiは12,000人超の開発者を擁する組織での実体験を示す。
開発者は「マネージャーのマネージャー」になる
エンジニアにとって最も刺さる話はここだ。
ArgentiはAIエージェントの普及によって、開発者の仕事が本質的に変わると語った。開発者はもはやコードを直接書くことが主務ではなく、AIエージェントに「何をすべきか」を説明し、委譲し、その成果を監督する役割へと移行していく。さらにエージェントが自律的にサブエージェントを生成できるようになったことで、開発者は「マネージャーのマネージャー」になるという。
「アウトカムを明確に定義し、リソースと優先度を管理する。ほとんど起業家のような仕事だ」
この変化は抽象的な将来像ではない。ArgentiはAWSのVPとして技術組織を率いたのち、2019年にGoldmanに参画した人物だ。Goldman全体の約47,000人のスタッフのうち、12,000人超が開発者であり、彼らにとってAIとの協働はすでに日常だという。
AI活用「三つの波」──今どこにいるか
Argentiは自社のAI導入を三つのフェーズで整理した。
第一の波は、新しいものを試したがる人たち──つまり開発者が主役だった時期。GitHubのコミット頻度のような指標でAIの効果を測っていたが、それをドルに換算することはできなかった。
第二の波はプロセスの再設計だ。ワークフローの各ステップに「そもそも必要か?」を問い直し、同じことを速くこなすのではなく、人手を介さずにエンド・ツー・エンドで完結する「ストレート・スルー・プロセッシング」(証券取引の世界で使われる用語で、注文から決済まで手動介入なしに完結する仕組みを指す)を目標とした。
第三の波が「今まさに生まれている」フェーズで、テーマはコスト削減から収益創出への転換だ。
「AIによっていかにコストを削減するかではなく、AIによっていかに収益を上げるか」
ROIの測り方が変わった
過去半年ほどで、成果の測り方が変化したという。3ヶ月かかっていたプロジェクトが2ヶ月で完了する。ゼロベース予算編成(予算を前年踏襲ではなくゼロから積み上げ直す手法。費用対効果の低いプロジェクトは承認されない)で予算がつかなかったプロジェクトが、AI活用によってペイするようになったという事例も出てきている。
「それは人員削減を意味するか」という問いに対し、Argentiは「その選択肢はある」としつつも、エンジニアリングのバックログには常に、予算化されている以上の仕事が積まれていると述べた。成長への意欲がある限り、仕事はなくならないという立場だ。
AIを「幼稚園」のように扱う
セキュリティと信頼性についての考え方も、エンジニア的に興味深い。
AIの本質は統計的なモデルであり、同じ入力に対して毎回同じ結果を返す保証はない。Goldmanはモデルがミスをすることを前提に設計する。Argentiはこれを「幼稚園」に例えた。
「子ども一人ひとりに安全マニュアルを渡すのではなく、部屋から危険な角を取り除く」
具体的には、エージェントの実行環境とアクセス権限の制限、モデルのChain of Thought(モデルが答えを導くまでの思考過程を明示的に出力する手法)の読み取り、そして別のAIモデルによる出力の検証という多層構造を採用している。この設計思想を同社は「ゼロトラスト&多層防御(defence in depth)」と呼ぶ。
オープンウェイトか、フロンティアモデルか
モデル選択の軸は「選択肢を持ち続けること」だとArgentiは言う。
オープンウェイトモデル(公開された重みを持つモデル。自社データでファインチューニング可能)は、知的財産の保護とコスト削減に有効だ。単純なタスクには安価なモデルで十分、という判断もできる。
一方、フロンティアモデル(GPT-4やGemini Ultraのような最先端の大規模モデル)は、前人未踏の問題に対する強力な推論力を持つ。Argentiはこの使い分けをトラックとF1カーに例えた。日常の運搬はトラックで、レースに出るときは最速のマシンを使う。
なお同イベントでは、SAPが100以上のモデルをテストしてタスクごとに最適を選ぶという方針を語っており(関連記事)、大企業のAI選定がマルチモデル前提になっていることが見えてくる。
詳細はGoldman's Marco Argenti: 'How do you make money because of AI?'を参照していただきたい。