10月5日、SiliconAngleが「Cohere unveils North 2 AI agent platform with rebuilt orchestration and token spending caps」と題した記事を公開した。Cohereがエンタープライズ向けAIエージェントプラットフォーム「North 2」を発表し、オーケストレーションの再設計とトークン消費の上限管理機能を追加した。「AIエージェントを本番導入したいがコスト管理が怖い」というエンジニアリング組織の懸念に、機能レベルで正面から応えようとする設計だ。
エンタープライズAIエージェントの「コスト管理問題」に正面から向き合う
AIエージェントを組織内に展開する際、セキュリティ・機能・コスト管理の三つを同時に確保するのが難しいというトレードオフは、多くのエンジニアが肌で感じているはずだ。Cohereは今回のNorth 2で、この三つすべてを諦めずに実現するという設計方針を打ち出した。
North(旧版)は2025年8月に一般公開されており、金融から公共部門まで約1年間の大規模な本番運用から得たフィードバックがNorth 2に反映されている。
CohereはCommand R+などのエンタープライズ向けLLMで知られ、OpenAIやAnthropicがコンシューマー・開発者市場を主戦場にする中、規制産業・大企業向けのオンプレミス対応とデータ主権を強みに差別化を図ってきた。North 2はそのポジショニングをエージェント領域に拡張する位置づけだ。Microsoft CopilotやSalesforce Agentforceといったプラットフォームベンダーのエージェント製品が既存顧客基盤を背景に普及する中、Cohereはモデル選択の自由度とインフラ主権を武器に、特定ベンダーロックインを嫌う大企業ITの需要を狙っている。
最大の目玉:トークン消費の細粒度な管理機能
エンジニアリングマネージャーや管理者にとって直接的に刺さるのが、North Admin(管理コンソール)に追加されたトークン支出管理機能だ。
- ユーザー単位・エージェント単位でトークン使用量を追跡
- ユーザーおよびグループに対し、リクエスト数・トークンレートに基づく消費ティアを定義可能
- 組織全体のトークン上限をキャップとして設定
- 上限に達する前にチームへアラートを送信する機能
AIエージェントをスケールさせると「月末に請求額を見て驚く」という事態が起きやすい。この粒度の管理機能は、PoC(概念実証)から本番移行を検討している組織にとって実用的な要件を満たす。
さらにNorth 2はモデル非依存(model-agnostic:特定のAIモデルに縛られず、複数モデルを組み合わせて利用できる設計)であり、管理者はチームごとに割り当てるモデルをCohere外部から持ち込んだモデルも含めて指定できる。自社でファインチューニングしたモデルをそのまま組み込める点は、エンタープライズ特有の要件に対応している。
オーケストレーションの再設計
マルチステップのタスクを自律的に処理し、承認が必要なステップだけ人間を介在させるオーケストレーション機構が刷新された。主な変更点は以下のとおりだ。
- シンプルなプロンプトから作成したエージェントを社内全体で共有可能(同じワークフローを複数チームが重複して構築する無駄を排除)
- エージェントがセッション間でメモリを保持
- 繰り返し呼び出されるロジックをパッケージ化する「スキル」機能を追加
- 全エージェントからアクセスできる共有ライブラリ
コネクタ連携としてはSlack、GitHub、Microsoft SharePointおよびOneDriveをサポート。金融データプロバイダー(PitchBook Data、S&P Global、FactSet Research Systems)向けのコネクタも計画中だ。
自然言語のリクエストからスライドデッキ、ダッシュボード、軽量アプリをチャット画面内でプロトタイプとして生成する機能も追加されている。定期処理向けにはプリビルドのテンプレートとドラッグ&ドロップのワークフロービルダーが用意され、リアルタイムでパフォーマンスを確認できる。
セキュリティとインフラ
セキュリティ面もNorth Adminで一元管理される。
- PII(Personally Identifiable Information:氏名・住所・マイナンバーなど個人を特定できる情報)のスクリーニングをプロンプトおよびレスポンスに適用
- プロンプトインジェクション(悪意ある入力でAIの動作を乗っ取ろうとする攻撃手法)の検出
- 各エージェントが許可された操作のみを実行する「自律性ポリシー」
インフラ面では、引き続きオンプレミスまたは顧客自身のVPC(仮想プライベートクラウド)上での稼働をサポートしており、エアギャップ環境(外部ネットワークと物理的に切り離され、インターネットへの接続を一切許可しない隔離インフラ。防衛・金融・政府系システムで採用される)にも対応する。金融・公共部門など規制の厳しい業界を狙った設計だ。
コスト面では、NvidiaのBlackwellおよびHopper GPU上でのトークン生成効率向上についてNvidiaと協業していると述べている。Nvidia生成AIバイスプレジデントのKari Briski氏は「North 2がより少ないコストでより多くのトークンを提供できる」とコメントしている。
実導入事例
Bell CanadaのBell Cyber部門がNorth 2をセキュリティオペレーションに採用している。同部門のCTAIOであるJawed Ahmad氏は、North 2がエージェンティックAIを「最初から」コントロールとデータ主権の要件に応える形で運用できると述べた。
韓国のITサービス企業LG CNSは社内利用と顧客向け展開の両面でNorthを活用。Cohereの初期投資家であるRadical Venturesは、North 2上にファウンダーとの面談前ブリーフィングを自動作成するワークフローを構築しており、以前は数時間かかっていた情報収集が自動化されたという。
Aleph Alphaとの合併という文脈
North 2の発表は、CohereがドイツのAleph Alphaとの合併契約を締結したわずか3週間後というタイミングだ。合併後も社名はCohereが引き継ぐとされており、欧州市場への展開を見据えた布石ともとれる動きである。なお、元記事において合併の具体的な規模(金額)は明示されていない。
詳細はCohere unveils North 2 AI agent platform with rebuilt orchestration and token spending capsを参照していただきたい。