10月6日、Los Angeles Timesが「AI startup prescribes acne medication without a doctor's direct oversight」と題した記事を公開した。処方箋に医師名が記載されているにもかかわらず、実際には人間の医師が一切関与していない——そんな仕組みが米国の州レベルで初めて実用段階に入った。AIスタートアップNolla Healthがユタ州で開始したパイロットプログラムの詳細と、それが医療規制にもたらす問いを紹介する。
医師なしで処方箋が発行される時代が始まった
ニューヨーク市を拠点とするヘルスケアスタートアップNolla Healthが、ユタ州でAIによる処方箋の自動発行を開始した。医師の直接関与なしに処方箋が薬局に送付されるのは、米国の州レベルでは初の事例だ。
対象はニキビ(尋常性痤瘡)の局所治療薬に限定されており、経口薬やホルモン療法は含まない。アプリは月額約5ドルで、処方される調合薬は月額約50ドル程度。一般的な皮膚科受診が1回150〜300ドルかかることと比べると、大幅に安価だ。
AIが処方するまでの流れ
Nolla HealthのアプリはiOS/Android向けに提供される。患者の利用フローは以下のとおりだ。
- アプリ上で顔をスキャン
- 病歴・個人情報を入力
- AIが肌を解析し、「ニキビ重症度スコア」を算出
- スコアと個人情報を組み合わせ、8種類の承認済み治療薬から最適なものを推奨
- 処方箋がそのまま薬局へ送信される
処方箋には医師名が記載される。しかしCEOのLuis Wenus氏は取材に対し、「実際には人間の専門家が処方を書いているわけではない」と明言している(元記事の記述に基づく)。処方箋の名義と実態が乖離するこの構造は、法的・倫理的にセンシティブな問題をはらんでおり、元記事でも規制当局との協議の焦点のひとつとして言及されている。
段階的な医師レビュー体制
規制上の配慮から、プログラムは3段階で運用される。以下のフェーズ区分と件数は元記事に記載されたパイロット設計に基づく。
- 最初の100件:AI生成の処方箋を薬局送付前に医師がレビュー
- 次の400件:AIが薬局へ直接送付し、医師が週1回遡及的にレビュー
- 以降:月1回、処方箋全体の少なくとも**10%**を医師がレビュー
さらに、ユタ州医師免許委員会が任命する第三者の医師が処方レビューを監督する仕組みも設けられた。プログラムの期間は1年間で、OAIP(ユタ州AI政策局)の裁量で最大2年の延長が可能だ。
規制の「抜け穴」をどう設計したか
この取り組みを可能にしたのが、ユタ州のOAIP(Office of Artificial Intelligence Policy)だ。同局は企業が緩和された規制下でAI製品をテストできる制度(いわゆる「AIサンドボックス」)を設けており、Nolla Healthはその下で「狭い例外」として処方権限に関する州法の適用を免除された。
OAIPは同様の枠組みで、AIによる薬の補充承認を行うスタートアップDoctronicのパイロットも承認していた。元記事によれば、Doctronicは複数カテゴリの薬を対象としていたが、ユタ州医師免許委員会が「市民をリスクにさらす」と公開書簡で批判し、一部の薬が承認リストから除外される事態になった。対象薬の具体的な範囲については元記事の原文を参照されたい。
Nolla Healthはその教訓を踏まえ、認可取得前から医師免許委員会と協議を重ねた点が前例と異なる。また、OAIPはAI生成処方箋をカバーする特別な医療過誤保険の加入を義務付けており、万が一の際に責任の所在を裁判で争えるよう「デューティ・オブ・ケア」条項も契約に盛り込んでいる。
医療界からの懸念
米国医師会(AMA)のCEO、John Whyte氏は9月に行われた公開討論でこう述べた。
「これらのツールは非常に効果的な役割を果たせる。しかし、自律的に医療を行おうとすべきではない。そうするなら、人間と同等の非常に高い基準を満たす必要があるが、私はそれを満たせるとは思わない」
ユタ州の推計によると、年間に皮膚科受診を求めるニキビ患者は5,500〜11,000人。Nolla Healthはこの層を主なターゲットとしており、Wenus氏は将来的にはニキビ以外の領域にも展開し、「AIが駆動する全人的な家族医」を目指すと述べている。
医療AIが「エージェント」として実際の臨床行為を代替し始める段階に入った今、規制の枠組みをどう設計するかは、医療業界全体の問題として議論が続くだろう。
詳細はAI startup prescribes acne medication without a doctor's direct oversightを参照していただきたい。