10月5日、Shane Downingが「Tencent scores 100,000 offshore AI chip deal with Oracle for $7 billion despite climbing prices」と題した記事を公開した。米中AI覇権争いが激化するなか、中国テック大手のTencentが規制の「抜け穴」ではなく現行法上の合法的手段を活用しつつ、東南アジアのOracleデータセンター経由で10万枚のAIチップを70億ドル相当で調達する契約を締結したとの報道が波紋を広げている。なぜこれが重要なのか——AIコンピュート資源の確保が地政学リスクと直結しつつある現状を象徴する案件だ。
70億ドルの大型契約:何が起きているのか
Financial Times(FT)の報道によると、OracleはTencentと5年間のリース契約を締結した。対象となるのは東南アジアの複数のOracleデータセンターで、中国国内では入手不可能な先端AIチップ約10万枚を含む。契約総額は約70億ドルと推計され、そのうち約30%が前払いとなる見込みだ。
1チップあたりの単価に換算すると、1チップ時間あたり約1.60ドルとなる。これはSemiAnalysisが2025年8月に算出したNvidia H100の1年契約相場(約2.80ドル/GPU時間)と比べて約43%安い。NvidiaのB200(3年契約で3.09ドル/GPU時間)と比べると約48%安い計算だ。
ただし、契約の対象チップが何であるかは明示されていない。FTはNvidiaの最上位プロセッサに達するケースがあると言及しているが、この契約にNvidiaのハードウェアが含まれるとは限らない。価格帯から考えると、Hopperクラス(H100/H200)の可能性が高く、H200の中国向け輸入は依然制限されていることから、「中国国内では入手不可能なチップ」という条件とも合致する。
データセンターの場所と法的グレーゾーン
Oracleのデータセンターは中国国外に立地しており、Tencentはあくまでそのコンピュートリソースを「借りる」形態だ。具体的な国名や施設、開始日は非公開だが、OracleはシンガポールにCloud Regionを2拠点、マレーシアにも1拠点を発表している。東南アジアのデータセンターでは、ByteDanceやAlibabaが最大顧客であり、中国企業が主にAIトレーニング用途で利用しているとFTは伝える。
米中のAI輸出規制をめぐる摩擦のなかで、この種の契約は法的に微妙な位置にある。
- BIS(商務省産業安全保障局)規制:2023年11月以降、先端AIチップの対中輸出には許可証が必要だが、クラウドレンタルは対象外のままだ。
- **Remote Access Security Act(遠隔アクセス安全法)**:下院を369対22で可決した超党派法案で、クラウド経由の技術アクセスを規制できる権限を政府に付与する内容だが、現在上院銀行委員会で審議中。
- 商務省の規則草案:The Informationによると、タイやシンガポールなど第三国でのクラウドレンタルを中国企業に対して禁じる規則の策定が進んでいる。ただし、Baker McKenzieの弁護士は「現行法では執行不可能」と指摘している。
Tencentは米国防総省の「中国軍事企業」リスト(1260Hリスト)に掲載されているが、これは制裁ではなく、今回の契約を直接禁じる根拠にはならない。つまり、今回の取引は現行規制のもとでは違法とはされていない——だからこそ規制当局が対応を急いでいる状況だ。
Oracleとしての意義
Oracle側にとっても、この契約は財務的に好都合だ。同社の直前四半期(3〜5月)はフリーキャッシュフローがマイナスだった。Tencent側が約30%を前払いする構造は、Oracleが今年初めに示した方針とも整合する。Oracleの直近四半期では繰延収益が154億ドルから308億ドルへと倍増しており、大型のAI契約が積み上がっていることが読み取れる。GPU稼働率は**97.9%で、更新時の平均プレミアムは20%**と報告されている。
Tencentとしては、2025年12月にDataSection(日本・オーストラリア)でBlackwellチップを12億ドル以上でリースする契約をすでに締結しており、今回はその延長線上にある動きだ。
今後の注目点
- 10月28日のOracle Investor Day(Oracle AI World、ラスベガス):詳細が開示される可能性がある
- 11月のTencentのQ3決算発表:具体的な数字が明らかになるかもしれない
- 11月のAPEC首脳会議(元記事に基づく開催地情報):トランプ大統領と習近平国家主席の次回会談で、チップ規制の方針が示される可能性がある
米中双方にとってAIコンピュートの獲得競争は加速しており、今回のリース契約はその最前線にある。規制環境が固まる前に計算資源を確保しようという動きは、今後も続くとみられる。
詳細はTencent scores 100,000 offshore AI chip deal with Oracle for $7 billion despite climbing pricesを参照していただきたい。