10月5日、CNBCが「Satya Nadella reinvented Microsoft once. Can he do it again in the AI era?」と題した記事を公開した。AI時代においてサティア・ナデラがMicrosoftを再び変革できるかどうかを軸に、新たな課金モデルと製品戦略の全貌を詳報している。
クラウドの次は「トークン」——ビジネスモデルの再設計
NadellaがCEOに就任した2014年、Microsoftはレガシーソフトウェア企業として停滞していた。彼はOfficeの永続ライセンスを廃止し、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)とAzureクラウドへの転換を断行。OracleやSalesforceとの連携も容認するなど、「Microsoft一択」の思想を捨てたことで、株価と事業規模を大幅に回復させた。
今、彼は同じことをもう一度やろうとしている。
ターゲットはサブスクリプションからコンサンプション(従量課金)への移行だ。AIの経済圏では「トークン」(LLMへの入出力を計測する単位)が通貨になる。Nadella自身、7月の決算説明会で「TAM(総市場規模)をさらに拡大する」と述べ、大量のトークンを販売するベンダーになることを目指すと明言した。
Copilotの限界と「Cowork」という突破口
Microsoftの現状は、時価総額約4兆ドルを誇りながらも、AI分野での存在感は薄い。Nvidiaはチップを、AnthropicとOpenAIはモデルを、MetaはパーソナルAIエージェントを、GoogleのGeminiはビジネスと一般消費者の両方を押さえている。
Microsoftの主力AI製品であるCopilotは、月額30ドル/ユーザーの固定課金で提供されており、現在のシート数は3,000万。ただし、ベースとなるOffice 365の商用ユーザーは4億5,000万人超で、普及率は低い。株価も年初来で7%上昇にとどまり、NasdaqやS&P 500に対して出遅れている。
転機となったのはAnthropicの「Claude Code」だった。2026年1月、Claude Codeが多様なツールを組み合わせてタスクをこなす能力でMicrosoftとの競合案件を奪い始め、社内で危機感が高まった。マーケティング責任者のJared Spataro氏は率直に語る。
「固定のユーザー単価では、最良のアウトカムを提供し続けられないことが明白になった。ビジネスモデルを見直す必要があると気づいた」
その答えがUBB(Usage-Based Billing:使用量ベース課金)だ。第一弾製品となる「Copilot Cowork」は、大規模な生産性タスクを受け付け、進捗を可視化しながら処理するエージェント型の製品で、固定シート課金ではなく実際の処理量に応じて課金される。Nadella自身もユーザーとして使っており、「サプライチェーン最適化のスプレッドシートを複数シナリオで作らせると、素晴らしい成果物が出てくる」と語っている。
Cowen社のアナリスト、Derrick Wood氏はこの動きをポジティブに評価する。
「Claude Codeが従量課金に移行した際、トークン請求額が大幅に跳ね上がった。Coworkでも同じことが起きる可能性は十分ある」
一方、アドバイザリー企業Directions on MicrosoftのDavid Berry副社長は慎重だ。
「コスト意識の高いIT部門は簡単には踏み切れない。有効活用されているか判断する手段がない中で、野放しにすれば予算を食い尽くすという懸念は現実的だ」
GitHub CopilotとMustafa Suleyman——二つの試金石
コーディングAIの分野では、GitHub Copilotが貴重な教訓を残した。AI-nativeスタートアップのCursorやClaude Codeに市場シェアを奪われた後、Microsoftは今年、料金体系をコンピューティング需要連動型に変更。当初は顧客の反発もあったが、7月時点のユーザー数は5,000万人(昨年10月の2,600万人から倍増)に達し、Copilotの売上成長率は前四半期比60%加速した。
GitHub Copilotのオペレーティングチーフ、Kyle Daigle氏は「GitHubが学んだ教訓を、他のチームと共有している」と述べており、このモデルがMicrosoft全体のUBB戦略の雛形になっている。
もう一つの焦点がAI部門CEO Mustafa Suleyman(DeepMind共同創業者)だ。表記はSuleimanではなくSuleimanと誤記されることがあるが、正確にはSuleyman。2024年にNadellaが招聘し、モデル開発を担わせている。同チームはコーディング、画像生成、推論の各モデルをリリースしたが、独立系リーダーボードではAnthropicやOpenAIに及ばない。一方、TeamsなどOfficeアプリの開発チームはSuleimanチームの文字起こしモデルを低コストで活用しており、「アプリとモデルを同じ屋根の下に置く」統合モデルの恩恵は着実に出ている。
Nadella自身は「フロンティアモデル単体」よりも「フロンティア・エコシステム」の構築を優先すると明言している。9月のCopilotイベントでは、Anthropic・OpenAI・Microsoft AIの各モデルに加え、SpaceXのStarlinkインフラと連携したサービスへの接続も可能になると宣言するスライドを掲示した。SpaceXとの連携は衛星通信経由でのオフライン・エッジ環境へのAIアクセスを想定したものとして紹介されており、コンシューマー向けとは異なるエンタープライズ用途での布石とみられる。
「ハンズオンのリーダーだけが変われる」
ChatGPTの登場から約4年。Nadella自身は「コードアシストからエージェント型コーディング、そしてソフトウェアファクトリーへ、すべて1年以内に進んだ」と語り、変化のスピードを肯定的に捉えている。
顧客向けイベントで寄せられた「AI時代への適応をどう支援するか」という問いに対し、彼はこう締めくくった。
「ハンズオンのリーダーだけが変われる。プレスイベントからプレスイベントへ渡り歩くだけでは意味がない。自分自身がその中に入っていなければ」
一度Microsoftを変革したNadellaが、AI時代の再変革に成功するかどうか——元記事はCoworkの普及とUBBの収益化が出そろう時期がその答えを示すと論じており、業界全体の課金モデル変容を占う試金石として注目される。
詳細はSatya Nadella reinvented Microsoft once. Can he do it again in the AI era?を参照していただきたい。