10月2日、The Next Webが「Jensen Huang questioned Dario Amodei's AI warnings at the White House」と題した記事を公開した。ホワイトハウスの昼食会でAI安全性に関する原則声明への署名が終わった直後、NVIDIAのJensen HuangがAnthropicのDario AmodeiのAIリスク警告に公の場で疑問を呈した。業界の「一枚岩」を演出した直後に露わになった内部の温度差として注目されている。
ホワイトハウスで浮かび上がった内部の温度差
2025年9月30日(火)、ホワイトハウスで開催されたAI企業トップとトランプ大統領の昼食会。AI安全性に関する原則声明への署名が終わった直後、NVIDIAのJensen HuangらがAnthropicのDario AmodeiのAI警告発言を公の場でなぜ続けるのかを問い質したという。Wall Street Journalが事情を知る関係者からの情報として伝えた。Amodeiは「誠実であることが重要だ」と答えたとされる。
これが単なる個人的な口論でなく注目される理由は、舞台と文脈にある。署名直後という場面設定は、業界が政策的な連帯を示した瞬間のすぐ後に、その連帯の基盤となる価値観のズレが露呈したことを意味する。AIをめぐる規制の方向性が政治的にも決定的な局面を迎えつつある今、各社トップの発言は単なる個人の見解を超え、業界全体の政策ポジションに影響しうる。
「慎重派」vs「楽観派」の思想的背景
今回の対立は、業界内で以前から続く思想的な分断を反映している。
- 規制・慎重派: AnthropicのDario Amodei。AGI(汎用人工知能)や高度なAIがもたらしうる実存的リスクを強調し、政府による規制強化を訴えてきた立場。
- 推進・楽観派: NVIDIAのJensen Huang、MetaのMark Zuckerberg。AIが実存的リスクをもたらすという主張を概ね退け、規制より技術推進を優先する立場。
※編集部の考察:OpenAIのSam Altmanは規制の必要性に言及することもあるが、今回の元記事における直接的な言及は確認されていないため、本稿では「慎重派」の代表例としては列挙しない。
AmodeiはもともとOpenAI出身であり、AIの安全性研究を重視する立場からAnthropicを2021年に設立した経緯がある。Anthropicの企業理念の根幹には「AIの安全性(AI Safety)」の追求があり、大規模言語モデルの解釈可能性研究や安全な展開ガイドラインの整備に注力している。こうした姿勢が、AIの急速な社会実装を推進するNVIDIAとの立場の差を生む土台となっている。
一方、Zuckerbergは今回の昼食会で合意した声明文の草案を作成し、HuangはAI各社の支持取り付けに動いたとPoliticoが報じている。Huangは9月30日より前に、新たなAI規制法は不要だと発言していた。
なお、Amodeiはこの昼食会の2日前の9月28日(日)、トランプ大統領と夕食をともにしている。
Huangが主導する「Superintelligence」への改称運動
今回の昼食会で目立ったもう一つの動きが、AIを「Super Intelligence(超知性)」と呼び替えるキャンペーンだ。Axiosによれば、Huangはこの言い換えを推進しており、9月30日にトランプ大統領が大統領令によって行政府の公式用語として採用した。
「Superintelligence」はもともとAI研究者や哲学者の間で、人間の知的能力を全領域で大幅に超えるAIシステムを指す概念として使われてきた用語だ(Oxford参照)。Nick Bostromの著作『Superintelligence』(2014年)によって広く知られるようになり、AI安全性の文脈ではむしろ「リスクの象徴」として議論されることが多かった言葉でもある。その用語を、今度は政府の公式文書に「前向きなビジョン」として採用するという逆転が、この改称運動の興味深い点だ。
Huangはホワイトハウスのパネルで繰り返しこの用語を使い、一度「AI」と言い間違えると即座に訂正した。
「うまく使いこなせるようになるよ」とHuangは語った。
ただし、一般の受け止めは冷ややかだ。9月30日前後に実施されたYouGovの調査では、回答者の53%が「Artificial Intelligence」の方が適切な呼び方だと回答し、「Super Intelligence」を支持したのはわずか9%にとどまった。用語の刷新が業界トップ主導であるほど、それが政策的な意図を帯びているとも受け取られやすく、世論との乖離は一つの注目点だ。
業界の重鎮たちが表向きの連帯を示した直後に内部で衝突していたという構図は、AI規制をめぐる業界内の価値観の差を端的に示す出来事だった。AI Safetyを重視する立場と技術推進を優先する立場の対話は、ホワイトハウスという政策の中枢で、今まさに進行している。
詳細はJensen Huang questioned Dario Amodei's AI warnings at the White Houseを参照していただきたい。