10月3日、Los Angeles Timesが「California man's smuggling scheme sent $300 million in AI hardware to China, feds say」と題した記事を公開した。カリフォルニア州のIT企業オーナーが輸出規制対象のNvidia製チップを含むサーバーを3億ドル超にわたって中国へ密輸したとして連邦当局に逮捕された。出荷先を同盟国に偽装し貨物取次会社を経由させる手口は巧妙で、規模・手法ともにこれまでの類似案件を大きく上回る。AIチップをめぐる米中の規制攻防が激化するなか、摘発の意義は単なる刑事事件の枠を超えて国家安全保障の問題として注目されている。
Nvidiaチップをマレーシアとシンガポールへ「偽装」して中国へ転送
逮捕されたのは、カリフォルニア州インダストリー市に拠点を置くEarthmade Computer Inc.のオーナー、Greg Luiだ。連邦大陪審が今週中央地区カリフォルニア連邦裁判所に提出した起訴状によると、Luiと共謀者たちは、出荷先をマレーシアおよびシンガポールの顧客向けと偽って米国メーカーからNvidiaチップ搭載の高性能サーバーを調達し、中国政府へ販売したとされる。
米国商務省の規制では、マレーシアとシンガポールへの輸出に輸出許可証は不要だが、中国向けには必要だ。Luiらはこの抜け穴を突き、フレートフォワーディング(貨物取次:荷主に代わって輸送手配・通関業務を行う事業者)会社を使ってマレーシア・シンガポール経由で中国へ横流しする手口を取っていたとされる。
起訴状には具体的な取引も記載されている。あるケースでは、Nvidia H100チップ搭載サーバー27台を約760万ドルで米国メーカーに発注し、梱包リストにはロサンゼルス地区からクアラルンプールへの出荷と記載された。だがその直後、Luiの共謀者がマレーシア政府高官に宛てたメールで「27台すべてを中国に送った」と伝えていたことが証拠として挙げられている。2024年だけで、Earthmadeはマレーシアを拠点とする2社から1億7,600万ドルを受け取っていたとされる。
対象チップ:A100とH100
今回密輸されたとされるチップはNvidia A100およびH100だ。A100は2020年に、H100は2022年にそれぞれ発表されたデータセンター向けGPUで、いずれも大規模言語モデル(LLM)のトレーニングや推論処理に広く使われてきた世代のフラッグシップ製品だ。現在NvidiaはH200やBlackworldアーキテクチャ世代へ移行しており、H100は最先端ではなくなっているものの、AIアプリケーションに十分活用できる性能を持つ。規制上の観点では、A100とH100はともに対中輸出規制の対象であり、Nvidiaは規制に準拠した低性能版(A800・H800)を中国市場向けに設計・投入したが、それらも後に規制対象となった経緯がある。
米国は2022年に対中チップ輸出規制を強化し、NvidiaやAMDなどのメーカーは対応を迫られてきた。トランプ大統領がNvidiaのH200チップについて中国への販売を条件付きで認めたと報じられているが、条件の詳細は報道各社によって差異があり、輸出は依然として強く制限されたままだと報じられている。
AI輸出規制をめぐる政治的な文脈
この逮捕は、AI向け半導体の対中輸出規制をめぐる政治的な綱引きの最中に起きた。NvidiaやAMDなどのチップメーカーは対中規制の緩和を積極的にロビー活動しており、一方でトランプ大統領は今週、AI技術を「超知性(Super Intelligence)」と呼称し直す大統領令に署名している。
連邦検察官のBill Essayliは声明で「高度な超知性技術が敵対国の軍事能力強化に使われないよう保護することが国家安全保障を守る意味だ」と述べた。
なお、昨年も南カリフォルニア在住の中国国籍の2人が、数千万ドル相当のAIチップを中国へ不正輸出したとして起訴されており、類似の手口による摘発が続いている。今回の3億ドル超という規模はその比ではなく、規制の抜け穴を組織的に悪用するスキームの巧妙さ・大胆さが際立つ案件だ。
Luiは輸出規制違反の共謀・不正輸出・マネーロンダリング共謀の3件で起訴されており、現時点で弁護人は記録に残されていない。
詳細はCalifornia man's smuggling scheme sent $300 million in AI hardware to China, feds sayを参照していただきたい。