10月3日、Inside AI News が「AI's $30 Trillion Bet: Productivity Gains Remain Elusive」と題した記事を公開した。PwCの試算では、AIデータセンターへのグローバル支出は2050年までに30兆ドルに達する可能性があり、これは米国債の発行残高総額にほぼ匹敵する規模だ。しかし、これほどの投資を正当化するはずの生産性向上の証拠は依然として乏しく、JP Morganは「依然として捉えどころがない(remain elusive)」と表現している。
30兆ドルの投資、回収の算数が合わない
PwCの試算によると、AIデータセンターへのグローバル支出は2050年までに30兆ドルに達する可能性がある。インフレ調整後でも鉄道建設やドットコムブームを大きく上回る規模だ。
この規模感を個社レベルで見るとさらに鮮明になる。AnthropicはReutersが入手したIPO目論見書によれば、2025年の売上高の100倍以上にあたる5,180億ドルを今後数年間で段階的に投資していく計画を持つ。これはIPO申請に向けて準備された書類上の累積投資計画額であり、単年度の支出規模ではない点に注意が必要だ。
問題は「回収」だ。Columbia Business SchoolのエコノミストStijn Van Nieuwerburghの試算では、2025〜2032年の米国AI投資総額は9兆ドル、GDPの年率3.2%に相当する。仮に10%の投資利回りを目指すなら、AIセクターは2032年までに年間3.55兆ドルの売上を立てなければならない。現在の収益はその「ごく一部」にすぎない。
JP Morganは8月のレポートで、米国においてAI由来の広範な生産性向上は「依然として捉えどころがない(remain elusive)」と書いた。同行はNvidiaの株価を基準に試算すると、投資を正当化するには今後10年間で年率3〜5%の生産性向上が必要だと結論づけた。一方、米議会予算局(CBO)の同期間の基準シナリオは**年率1.75%**である。
Bainが突きつけた「新市場必要論」
Bain & Companyの調査はより直截だ。「既存市場からの生産性向上だけでは現在の支出を正当化できない」と断言し、AIガイドのロボット、電池や半導体向け新素材といった「全く新しい市場の創出」が不可欠だと指摘する。Google、Amazon、Microsoftといった米国のハイパースケーラーが設備投資を賄うには、今後5年間で4.2兆ドル超の新規収益源が必要とも推計されている。
「問題はアプリケーションが費用を賄えるほど早期に登場するかどうかだ」——Bain & Company
さらにVan Nieuwerburghは、建設資金の多くがレバレッジドな債務で賄われている点を指摘する。「需要の小幅な悪化、遅延、または資産価値の低下があるだけで、はるかに大きな損失を生む」と同氏は10月改訂版の論文で警告する。
AI幹部の楽観論と「再帰的自己改善」
AI企業のトップは強気の姿勢を崩さない。AnthropicのCEO Dario Amodeiは「崇高な美しさを持つ未来」と表現し、OpenAIのCEO Sam Altmanはモデルが自己改善を習得することで「前例のない驚異が達成される速度になる」と語る。
8月にUC Berkeleyで開催されたサミットでは、Google DeepMindのJasjeet Sekhon(最高戦略責任者)が「再帰的自己改善(recursive self-improvement)」を投資論拠の「中核」と位置づけた。もし実現すれば未曾有の生産性向上をもたらすとしている。ただし同一の能力が人類への実存的リスクとして懸念されていることも記事は指摘する。
Cambridge大学の経済学者 Diane Coyleは「過去の革命的技術が生産性に影響を与えるまでには10〜50年かかった」と歴史的事実を示す。Anthropicの経済チームは2030年時点のシナリオを試算しており、AIなしの基準成長率2%に対し、穏当な影響で2.4%、実質的な影響で5.4%、極端な影響で15.4% の成長を予測するが、各シナリオへの確率は付与していない。
ホワイトカラーの雇用への影響:すでに始まっている変化
Amodeiは昨年、「5年以内にエントリーレベルのホワイトカラー職の半数がAIによって失われる」と予測した。その兆候はすでに若年層の雇用統計に現れつつある。スタンフォード大学の研究者が8月に発表した調査によると、22〜25歳の若年労働者のうち会計士や法律補助員などAIの影響を受けやすい職種の雇用は、清掃員や建設作業員といった影響を受けにくい職種と比べ19%低いという結果が出ている。
米英の研究は、全体的な雇用水準は強いままでも、ホワイトカラーの初期キャリア採用が鈍化していることを示している。生産性向上の恩恵が広く行き渡る前に、特定の職種・年齢層への影響が先行して顕在化しつつある構図だ。大規模な一斉解雇というよりも、新規採用の抑制というかたちで変化が静かに進行している点は、統計上の見えにくさとともに注視すべき動向といえる。
歴史的な先例が示す「救い」
1873年恐慌で鉄道王が破産しても列車は走り続けた。ドットコムバブルが崩壊してもインターネットは消えなかった。投機的な熱狂の中で築かれたインフラは、投資家よりも長く存在し続けた。AIにとっての問いは「技術が生き残るか」ではなく、「債務が満期を迎える前に収益が実現するか」である。
詳細はAI's $30 Trillion Bet: Productivity Gains Remain Elusiveを参照していただきたい。