10月3日、The Next Webが「AI can't fix a business system with broken processes」と題した記事を公開した。業務オペレーションの設計を専門とするDessy Pavlovaの知見をもとに、AIを導入しても企業の大半がスケール化に失敗する根本原因と、その処方箋について詳しく論じている。
「壊れたプロセスを高速化しているだけ」という現実
McKinseyの2025年グローバル調査によると、88%の組織がAIを少なくとも1つの業務機能で使用しているにもかかわらず、**組織全体にスケールできていると回答したのはわずか7%**だった。
この数字が示す構造的問題を、Pavlovaは鋭く指摘する。「断片化したビジネスにAIを与えると、断片化が速くなるだけだ」。
典型的な業務フローを想像してほしい。顧客がウェブサイトから問い合わせる。誰かがその情報をスプレッドシートに入力する。別の人がそれを業務プラットフォームに移す。さらに別の人がウェブサイトを更新する。財務部門には別途情報が届く。経理担当者があとで照合する——。
各ツールは優秀でも、接続が断片的なままAIを重ねれば、エラーや遅延の伝播が加速するだけだ。ZapierやMakeといったコネクタツールで無理やりツール同士を連携させている企業は多いが、それはプロセスの設計を根本から見直したわけではない。
こうした問題が今あらためて注目される背景には、生成AIの普及スピードと組織の適応力の間に生まれた大きなギャップがある。ツールの導入コストが劇的に下がったことで「まず入れてみる」判断が加速した一方、業務プロセスそのものの見直しは後回しにされやすい。日本企業においても、DXの名のもとにツールだけが増殖し、現場の業務フローが複雑化するケースは少なくない。「AIを入れたのに生産性が上がらない」という声の多くは、この構造に起因している可能性が高い。
正しい設計とは何か:「人間が決定し、AIが実行する」
Pavlovaが提案するアーキテクチャの核心は、ビジネス自体を中心にシステムを構築することだ。
具体例として、数十クラスを運営するスクールビジネスを挙げている。生徒がクラスを変更し、講師が別の曜日に移動する——人間がその決定を下す。そこから先、ウェブサイト・運営システム・スケジュール・財務記録への反映を、AIが連鎖的に自動処理する。
人間が設計者であり続け、AIが業務エンジンになる。
ただし、自動化=放任ではない。Pavlovaはシステム内に「ストップゲート(stopgate)」——プロセスの途中に設ける一時停止・確認ポイントのこと——を設けることを推奨する。変更内容を人間が確認し、問題があれば介入でき、プロセスが意図した終点に到達したかを確認できる仕組みだ。AIが異常を検知して情報を渡しても、「ビジネスが何を達成しようとしているか」を理解するのは人間の役割だと強調する。
AIは人の仕事を消さない——生産性+14%の意味
NBER(全米経済研究所)の研究では、5,179人のカスタマーサポートエージェントを対象に生成AIのアクセスを付与したところ、平均14%の生産性向上が確認された。特に経験の浅いワーカーへの恩恵が大きかった。
この結果が示すのは、「AIが人の仕事を理解する必要性をなくした」のではなく、「人が仕事をこなす速度と質を底上げした」という事実だ。業務の理解そのものは依然として人間に求められる。
スケールの前に「顧客の旅」を地図にせよ
Pavlovaが創業者に求めるのは、マーケティングや顧客獲得に大きく投資する前に、顧客の一連の動線を完全にマッピングすることだ。
- 顧客はどこから入ってくるか?
- その情報はどこへ行くか?
- 誰がそれを処理するか?
- 財務部門には何が届くか?
- 経理担当者はどこで何が起きたと知るか?
- 人間のエラーが入り込むポイントはどこか?
「顧客を獲得し、代金を回収する」のは、長い業務の旅のうちのたった2つの瞬間に過ぎない。
前述のMcKinseyの2025年グローバル調査は、AIを孤立したタスクに適用するだけでは大きな価値を取りこぼすと指摘し、ワークフロー全体の再設計が大きな生産性向上につながると結論づけている。また、IBMの2026年調査では、**AIエージェント展開の規模に完全に備えていると感じているテクノロジーリーダーはわずか11%**にとどまり、能力の拡大が組織のコントロールを上回っている実態が明らかになった。
結論:AIに経営させるな、摩擦を除かせろ
Pavlovaの主張はシンプルだ。AIにビジネスを経営させたいわけではない。人々がビジネスをうまく経営することを妨げている事務的な摩擦を取り除かせたいのだ。
設計図を丁寧に作る。適切な意思決定ポイントに人間を置く。雑務をAIに任せる。そうして初めて、成長に耐えられる土台ができる。「AIで何ができるか」より「自社のプロセスのどこが壊れているか」を先に問う姿勢が、スケールできる7%と残り93%を分けているのかもしれない。
詳細はAI can't fix a business system with broken processesを参照していただきたい。