10月2日、madrobot.blogが「Anthropic asks Australia for AI copyright approval」と題した記事を公開した。この記事では、AnthropicがオーストラリアのAI著作権規制に関する議会委員会へ提出した意見書の内容と、それに対する公共放送局の反論について詳しく紹介されている。
Anthropicは、オーストラリア議会の「AI合同特別委員会(Joint Select Committee on Artificial Intelligence)」に意見書(Submission 305)を提出し、一定の条件を満たすAI企業に対して、著作権で保護されたオーストラリアの著作物を学習データとして使用することを認めるよう求めた。
「条件付き承認」という折衷案
オーストラリア政府はすでに、AIによるテキスト・データマイニングを広く許容する「例外規定」の導入を否定している。Anthropicはその方針を受け入れた上で、より狭い代替案を提示した。
As an alternative, we believe that the Government could permit AI model training through a narrow form of conditional approval.
— Anthropic, submission to the Joint Select Committee on Artificial Intelligence
具体的には、以下の条件を満たした企業にのみ学習を認める仕組みを想定している。
robots.txtや「no crawl」シグナルなど、技術的な保護措置を遵守すること- 政府が定めるAI基準を満たすこと
- オーストラリアのクリエイター支援に向けた投資やその他の条件(政府が必要と判断した場合)
robots.txtとは、Webサイトがクローラー(ボット)に対してアクセスの可否を指示するファイルのことで、現状でも多くのサイトがAIクローラーの巡回拒否に使っている。
Anthropicはこの提案を、「オーストラリア独自の著作権法的枠組みを構築し、AI開発者を交渉の席に引き込む機会」と位置づけている。また、クイーンズランド州のWestern Downs Digital Parkデータセンターへの投資計画にも言及し、オーストラリアでの「フロンティアモデル学習」(最先端の大規模モデルの訓練)を支援するよう求めている。
公共放送ABCとSBSは真っ向から反論
同委員会に意見書を提出したのはAnthropicだけではない。オーストラリアの公共放送局ABCとSBSは、正反対の立場を表明した。
ABCは、AIサービスがオーストラリアのメディアよりも有利な扱いを受けていると批判し、次のように述べた。
This unequal treatment will accelerate the cannibalisation of the Australian news industry.
— ABC, submission to the Joint Select Committee on Artificial Intelligence
ABCの批判の主軸は、AI企業が既存の出版社とは異なる(より緩やかな)規制下に置かれているという「不平等な扱い」にある。現状ではAI企業が著作物を無断で学習データに使っても法的責任を問われにくい一方、ニュースメディアは著作権・名誉毀損・プライバシー規制に厳しく縛られているという構造的な非対称性が問題視されている。
SBSはさらに踏み込んで、robots.txtによる保護そのものの実効性を否定した。「こうした仕組みは日常的に無視・迂回されており、AI企業が自ら不法行為を回避すべきだ」という主張だ。ブロックする責任を出版社側に課す構造そのものへの異議であり、Anthropicが提案する折衷案の根幹を問う反論といえる。
両放送局はAI企業をニュース取引インセンティブ制度(news bargaining incentive)の対象に含めるよう求めている。これはGoogleやMetaなどの大手プラットフォームにニュース使用料の支払い交渉を促す既存の枠組みで、ABCはさらにAIサービスにも出版社と同等の著作権・名誉毀損・プライバシー規制を適用すべきだと主張している。
経済効果と安全保障リスクを併記
Anthropicの意見書はAI著作権問題にとどまらず、経済・安保の両面にも触れている。AIはオーストラリア経済に10年間で最大1160億豪ドルを追加する可能性があると生産性委員会の試算を引用する一方、「オーストラリアの国家安全保障に深刻な影響を及ぼしうる」とも述べている。また、Dario Amodei CEOが唱える「フロンティアを追い続けること(pace the frontier)」の重要性を繰り返し、独立した外部評価チームを常設し、調査結果を公表できる体制を整えると表明した。
なぜこれが重要か
AI学習データをめぐる著作権争いは、現在まさに国ごとの法整備によって決着がつけられつつある段階にある。米国ではThomson Reuters対Ross Intelligenceの控訴審でAI企業に不利な判決が出ており、司法の潮目が変わりつつある。
robots.txtベースのオプトアウト方式は、ブロックする責任を出版社側に課す構造であり、ABCとSBSが抵抗しているのはまさにその点だ。委員会には500件超の意見書が寄せられており、AnthropicとOpenAIの幹部は10月6日(火)にシドニーで直接ヒアリングに出席する予定だ。その場ではOpenAIについて、エージェントがオーストラリアのMedicareポータルに不正アクセスした問題も問われる見通しだ。
オーストラリアの判断は他国の規制動向に影響を与えうる。AIと著作権の関係を「条件付き承認」で折り合いをつけるモデルが成立するかどうか、業界として注視すべき局面にある。
詳細はAnthropic asks Australia for AI copyright approvalを参照していただきたい。