10月2日、TechSpotが「McDonald's has been using AI to decide how much you should pay for a Big Mac」と題した記事を公開した。マクドナルドがAIアルゴリズムを用いて「顧客がいくらまで払うか(willingness to pay)」を推定し、フランチャイズオーナーへの価格推奨という形で事実上の圧力をかけてきた実態を、ロイターの取材をもとに詳しく報じている。同社が独占禁止法上のリスクを自ら認識しながらこのシステムを運用してきた点が特に注目を集めている。
2マイル離れるだけで21%の価格差
最も鮮明な事実として、カリフォルニア州フレズノでの調査がある。コーポレート直営のマクドナルドがビッグマックを5.69ドルで販売しているのに対し、わずか2マイル(約3.2km)先の別店舗では6.89ドル、つまり21%高く設定されているケースが確認されている。
この価格差は無作為に生じたものではなく、AIによる地域別の需要推定が背景にある。ロイターが2025年8月に入手したAI価格設定ツールのスクリーンショットと複数のフランチャイズオーナーへの取材が、この実態を明らかにした。
AIが「willingness to pay」を地域ごとに推定する仕組み
このシステムは、マクドナルドの全米約1万4,000店舗の数百万件にわたる取引データに加え、ウェンディーズなど競合チェーンのオンラインメニュー価格を参照し、「その地域の顧客がいくらまで払うか」を推定する。フランチャイズオーナーに対しては「あなたの店舗の価格感度はミディアムです」といった形で警告が表示される仕組みだ。同社がこの方式を2019年から何らかの形で活用してきたとされる。
ここで用いられているのは、需要の変動に応じてリアルタイムで価格を変動させる「ダイナミックプライシング」とは異なる手法だ。ダイナミックプライシングが時間帯や混雑状況に応じた価格変動を指すのに対し、今回報じられた手法は「その地域の顧客の支払い意欲の上限(willingness to pay)」を統計的に推定し、それを推奨価格として提示するモデルに近い。後者はよりきめ細かく、かつ長期的な価格設定に影響する点で、消費者にとっては可視化しづらい仕組みだ。
推奨に従わないと「なぜか」と電話がかかってくる
オーナーは地域の人件費や維持費を考慮して独自に価格を決める権限を持っているが、AIの推奨から外れた場合、本社から「なぜ推奨価格に従わなかったのか」という電話がかかってくると複数のオーナーが証言している。さらに、アルゴリズムからの逸脱は詳細に追跡されており、新規出店の可否にも影響するとされる。
極端な事例として、コネチカット州のターンパイク沿いの店舗で18ドルの価格設定を強いられたと感じたフランチャイズオーナーが、マクドナルドを提訴したケースも報告されている。
独禁法リスクを自社が認識している
注目すべき点は、マクドナルド自身が価格固定(price fixing)や談合(collusion)のリスクを認識していることだ。同社はフランチャイズオーナーに対し、独占禁止法の遵守を明示的に指示しており、「近隣フランチャイズは競合他社とみなされる場合がある」と警告している。
AIが複数の独立した加盟店に対して同一の価格推奨を行い、その推奨への準拠を事実上強制するとすれば、価格協調の疑いを持たれるのは自然な流れだ。2024年にウェンディーズがダイナミックプライシングのテスト計画を発表した際、大きな批判を浴びて撤回した経緯があり、この分野への消費者・規制当局の目は厳しい。
AIを巡るマクドナルドの失敗の歴史
価格設定以外のAI活用は、マクドナルドにとって失敗続きだ。
- 2024年:IBMと共同で進めていたドライブスルーのチャットボット注文システムを終了
- 2025年:採用チャットボットのセキュリティ不備により、応募者の個人データが流出(※元記事に記載の件数。詳細は出典を参照)
- 2025年:AI生成クリスマス広告が強烈な批判を受け、公開を取り下げ
価格設定AIは「数百万件のデータを使った需要予測」という点では技術的に理にかなったユースケースではある。ただ、フランチャイズオーナーへの事実上の圧力と独禁法リスクが明らかになったことで、今後規制当局の目が向く可能性もある。
詳細はMcDonald's has been using AI to decide how much you should pay for a Big Macを参照していただきたい。