10月2日、Inside AI Newsが「EuroLLM and Apertus Open Models Launch on Cloudflare Workers AI」と題した記事を公開した。この記事では、欧州の公的機関が開発した2つのオープンLLMがCloudflare Workers AIで利用可能になったこと、そしてソブリンAI(国家・地域の自律的なAI基盤)の実用化が商用プラットフォームで試されている状況について詳しく紹介されている。
EuroLLMとApertus、何者か
EuroLLMは、Instituto Superior Técnico(ポルトガル)、エジンバラ大学、パリ・サクレー大学、ソルボンヌ大学、Unbabel、Naver Labs、アムステルダム大学のコンソーシアムが開発したLLMだ。EU全24公用語を含む35言語をサポートし、バルセロナのMareNostrum 5スーパーコンピュータで訓練された。EU多言語ベンチマークおよび機械翻訳タスクで同規模モデルを上回ると開発者は報告している。資金はHorizon Europe、欧州研究会議(ERC)、EuroHPCから提供された。
Apertus(ラテン語で「オープン」の意)は、ETH Zurich・EPFL・スイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)がスイスAIイニシアティブの一環として開発した、スイス初の完全公開多言語モデルだ。15兆トークン以上で訓練され、訓練データの40%が英語以外の言語。アーキテクチャ、重み、訓練データ、手法のすべてが公開されている。1,500以上の言語をカバーし、Romansch(ロマンシュ語)やスイスドイツ語、アジア・アフリカの低リソース言語でも主要な閉鎖・オープンモデルを上回るとされる。訓練には1万基以上のGH200 GPUを擁するCSCSのAlpsスーパーコンピュータが使われた。
設計段階からEU AI ActおよびGDPRへの準拠を考慮しており、訓練オプトアウトの尊重、個人データの除去、機微情報の記憶防止が実装されている点が特徴だ。
なぜ今Cloudflareに乗るのか
ソブリンAIの文脈でこの動きが重要な理由は、技術の話だけではない。
- フロンティアモデルへのアクセスが地理的制限を受けるケースが増えている
- 攻撃者がフロンティアモデルをサイバー作戦に使う事例が報告されている
- ワシントンとブリュッセル双方でオープンモデル開発を制限する声が高まっている
この状況下で、欧州・スイスの公的機関が開発したモデルが商用推論プラットフォームに乗ることは、「政府のパイロット事業を超えてスケールできるか」の実証試験でもある。
Cloudflareのネットワークは125カ国以上の335都市以上で稼働しており、230以上の都市にAI推論用GPUを配備している。同社のCEO Matthew PrinceはAIへの分散・低コストアクセスは国家レジリエンスの問題だと述べている(※元記事より。発言の場や日付の詳細は元記事を参照)。
アジア太平洋での展開
※以下のセクションで紹介されている事例(Form Mitra・MedBridge・Anshin Concierge)は、元記事に記載されているとして紹介されていたが、編集部による確認の結果、元記事への実際の記載の有無を保証できないことが判明した。元記事の該当箇所は読者自身で確認されたい。元記事の主旨として確認できる範囲では、Cloudflareのグローバルインフラ上でナショナル・地域モデルを提供することで、低リソース言語や非主流ユーザー層を対象としたアプリケーション開発が可能になるという文脈が語られている。
これらに共通するのは、商用AIモデルが収益上の優先度から外しがちな低リソース言語・非主流ユーザー層を対象としている点だ。
セキュリティチームへの展開
Cloudflare自身も社内でモデル依存リスクに直面し、複数のAIモデルを並列で動作させて脆弱性探索・検証・優先度付けを行うオーケストレーション層(ハーネス)を構築した。このハーネスはすでにオープンソースで公開されており、閉鎖・オープンを問わず任意のモデルと組み合わせて使える。「1つのプロバイダーへのアクセスが失われても防御が止まらない」設計になっている。
政府機関への説明では「安心した」という反応が多かったとされる。今月からは政府サイバーセキュリティ機関や重要インフラ事業者向けのハンズオンワークショップを開始し、第1回は10月のSingapore International Cyber Weekで実施される。
残された課題
記事は楽観論だけで終わっていない。欧州・スイスのモデルはコンピュートと人材に年間数十億ドルを投じる商用フロンティアラボと競合している。公的機関が同等のペースで開発を継続できるかは不透明であり、ソブリンAIが本格的な代替手段として成立するか、特定用途のニッチにとどまるかはまだ見えていない。
詳細はEuroLLM and Apertus Open Models Launch on Cloudflare Workers AIを参照していただきたい。