10月2日、TechSpotが「A court just ruled that training an AI on someone else's editorial work isn't fair use」と題した記事を公開した。他社の編集著作物をAI学習に使用することがフェアユースに該当しないとする米連邦控訴裁判所の判決を詳しく紹介している。
「普通の著作権侵害事件に過ぎない」——第三巡回区が下した判断
AI学習データと著作権をめぐる争いで、米連邦控訴裁判所(第三巡回区)が重要な判断を示した。Ross IntelligenceがThomson Reutersの著作物を無断でAI学習に使用したことは、フェアユースに該当しないというものだ。
本件はもともと2020年にThomson ReutersがRoss Intelligenceを提訴した事件で、2023年にデラウェア州連邦地方裁判所がフェアユースの成立を否定する判断を下している。今回の第三巡回区控訴裁の判決はその判断を支持・確定したもので、連邦控訴審レベルでAI学習とフェアユースの関係が否定された初の重要判例となる。
Ross Intelligenceは、弁護士が法律的な質問を入力すると関連する裁判所意見の抜粋が返ってくるAIベースの法律調査プラットフォームを開発していた。このシステムを訓練するにあたり、同社はLegalEase Solutionsという第三者企業を通じて、法律上の質問と裁判所意見の該当箇所を対応させた学習データを作成した。その材料に含まれていたのが、Thomson Reutersが運営する法律データベース「Westlaw」のヘッドノートだ。
ヘッドノートとは、Westlawの編集者が裁判所意見の中から重要な法律上の論点を抜き出して書いた要約文のことで、裁判所の判断そのものではなく、あくまで編集者による独自の整理・要約に相当する。これが著作権保護の対象になるかどうか、また学習目的の利用がフェアユースになるかどうかが、本件の核心だった。
二つの争点と、裁判所の結論
Rossは以下の二点を主張して争った。
- ヘッドノートは元の裁判所意見に内容が近すぎるため、独自の著作物として保護されない
- 学習目的での利用はフェアユースに当たる
第三巡回区はいずれの主張も退けた。
担当のTamika Montgomery-Reeves判事は判決文でこう書いている。
「Rossの主張の枠組みでは、この事件はAI法律テクノロジーの未来に関わる問題に見える。しかし見た目は欺くことがある。実際のところ、これは普通の著作権侵害事件に過ぎない。」
著作権保護に必要な「創造性の最低限の閾値」についても、裁判所はヘッドノートがこれを満たすと判断した。各ヘッドノートを作成するには、どの法律上の論点を取り上げるか、どの事実と推論を含めるか、どう簡潔かつ正確に表現するかという編集上の判断が伴う。これが「最低限の創造的な火花(creative spark)」を示すと認定した。
この判断は、公開文書を素材として構築された編集著作物全般に影響する。裁判所の判決文そのものは著作権の対象にならないが、それを要約・整理した編集者の成果物は独自の著作物として保護され得る。
「学習に使っただけ」という言い訳は通じなかった
フェアユースの判断でもう一つ重要だったのが、利用目的と市場への影響だ。
Rossは「ヘッドノートを学習に使っただけで、ユーザーに表示したわけではない」と主張した。しかし裁判所は、学習プロセスは競合商用サービス構築の中間ステップに過ぎないと判断した。
「Rossはヘッドノートを使ってAIプログラムを訓練するという中間ステップを踏んでおり、使用方法に若干の差異があるとも言えるが、争いのない証拠は、Rossが自社の法律調査プラットフォームの利益のためにヘッドノートを使用したことを示している。」
裁判所はこの利用を「良くても最低限の変容的利用(minimally transformative at best)」と表現した。技術的な手法は異なっても、追求していた商業的目的——法律調査市場での競争——はWestlawと同一だったということだ。
さらに市場への影響という観点でも、Rossの利用がWestlawの法律調査サービスの価値を損なう可能性があること、そしてヘッドノートをAI学習データとしてライセンス提供する潜在的な市場を侵害し得ることが認定された。
この判決が示す範囲と業界への含意
裁判所は、この判決がすべてのAI学習を対象とする広範なルールを定めるものではないと明示した。あくまで直接競合する事業者が、著作権保護された編集著作物を、ほぼ同一の商業目的に使用したという特定の事実関係に基づく判断だ。
ただし、この判決はAI開発者にとって実務上の意味が大きい。公開文書(法律文書、判例、政府データ等)を入手できたとしても、それをもとに出版社や情報ベンダーが作成した要約、ラベル、ランキング、編集解説といった「二次的編集著作物」の利用まで自動的に許可されるわけではないことが、連邦控訴裁のレベルで明確にされたからだ。
AI×著作権をめぐっては、New York Times対OpenAI訴訟など複数の訴訟が継続しており、今回の判決はそれらの行方にも影響を与える可能性がある。なお同訴訟を含む各案件は現時点でも審理が続いており、今後の判断が積み重なることでAI学習とフェアユースをめぐる法的基準はさらに形成されていく見通しだ。
詳細はA court just ruled that training an AI on someone else's editorial work isn't fair useを参照していただきたい。