10月1日、The Decoderが「Anthropic brings Claude to civilian agencies as its fight with the Pentagon drags on」と題した記事を公開した。AnthropicがFedRAMP High環境で米連邦・州政府の民間機関向けにClaudeの提供を開始した動向と、国防総省(Pentagon)との法的・政治的対立の現状を詳報している。
国防総省の利用停止命令を受けながら、民間機関向け展開を加速
Anthropicは現在、「Claude for Government」を米連邦および州政府の民間機関向けに提供している。このプラットフォームは2025年7月からオープンベータとして稼働しており、米国クラウドセキュリティの最高水準である**FedRAMP(Federal Risk and Authorization Management Program)High**環境上で動作する。
FedRAMP Highとは、連邦政府のクラウドサービス認定制度の中で最も厳格な分類だ。医療記録や法執行データなど機密性の高い情報を扱う機関が採用を求める水準であり、政府調達において事実上の参入要件となっている。
ただし、国防総省はClaudeの利用を停止させている。経緯は次のとおりだ。2025年3月、Anthropicは自社が定める兵器利用制限ポリシー——「大規模監視」や「自律型兵器」への転用を禁じる規定——の撤廃要求を拒否した。これを受けてPentagonはAnthropicをサプライチェーンリスクとして指定し、トランプ大統領がすべての連邦機関にClaude利用の停止を命じた。AnthropicはPentagonの要求を受け入れなかった結果として利用を停止されており、一方的に排除された構図とは異なる点に注意が必要だ。
なお、このポリシーは日本では「クリーンハンズポリシー」と呼ばれることがある。「クリーンな(後ろめたいことのない)手で事業を行う」という倫理的立場を示す概念で、Anthropicが軍事・監視用途への加担を拒否する姿勢の根拠となっている。
軍による使用継続と、法廷での攻防
皮肉なことに、軍は禁止命令後もClaudeを使い続けていたことが報じられている。イランとの交戦においてAI主導の攻撃計画立案にClaudeを使用し、その後削除したという事実が明らかになっており、現場レベルでの依存と政策判断のあいだに乖離があったことが見て取れる。
法廷での争いも現在進行形だ。2025年8月末、サンフランシスコの連邦判事が2つの利用停止指定のうち1つを「違法な報復」として無効化した。しかし9月末にはワシントンの控訴裁判所がもう1つの指定を支持しており、勝ち負けが分かれた状態にある。
政治的な動きも見逃せない。9月28日、AnthropicのCEO Dario AmodeiがトランプとプライベートなDinnerを行ったことが報じられており、両者の対立が和らぐ可能性も示唆されているが、法廷闘争が続く以上、予断は許さない状況だ。
Claude for Governmentが提供する機能
Claude for Governmentが提供する機能は、エンタープライズ顧客向けと同等の水準だ。利用量に応じた従量課金モデルで、組織単位の上限設定も可能。管理者向けには以下の機能が含まれる。
- 部門ごとの予算設定とモデルアクセス制御
- 監査ログ(操作記録の保全・追跡)
- 機密操作に対する2名承認制(複数人による確認を必須とする運用統制)
- チャット履歴はエージェントデバイス上に保持(クラウドに送信しない設計)
特に2名承認制は、金融や行政の内部統制でも見られる「セキュリティ強化のために重要操作を1人で完結させない」仕組みで、政府機関向けの信頼性担保に直結する機能だ。
OpenAIとの対比——軍事か、民間か
Anthropicがこの動きを見せる背景には、競合との差別化という側面もある。OpenAIはすでにPentagonと機密AIネットワーク向けの契約を締結しており、軍事領域に深く入り込んでいる。一方、AnthropicはPentagonへの経路を自らのポリシーによって制限した結果、軍事契約では後手に回っている。
ただし両者が狙う市場は完全に重なるわけではない。Anthropicが今回注力する民間政府機関——医療、福祉、税務、司法など——は、軍事契約とは異なるニーズと調達プロセスを持つ。OpenAIが軍事・安全保障領域で先行する一方、Anthropicは民間機関市場を自社の主戦場として位置づけているとみるのが自然だ。両社の戦略は対比的であり、単純な「遅れ」とは言い切れない。
民間政府機関向けのAI展開市場が本格的に立ち上がりつつある。Anthropicが自社のポリシーを堅持しながら政府調達をどこまで取り込めるか、法廷・政治・競合の三方向からの圧力が今後も続く。
詳細はAnthropic brings Claude to civilian agencies as its fight with the Pentagon drags onを参照していただきたい。