9月22日、Authors Guildが「Unsealed Briefs in Authors' Case v. Microsoft/OpenAI: Top Execs Knew Their Mass Book Piracy Was Illegal And Would Put Authors Out of Work」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIおよびMicrosoftの幹部が大量の書籍を無断でAI学習に使用した違法性を認知していたと示す、封印解除された裁判文書の内容が詳しく紹介されている。AI著作権訴訟においてこれほど明示的な内部記録が公開されるのは異例であり、日本でもAI学習と著作権の関係が文化庁を中心に議論される中、幹部の認識がどこまで記録されていたかを示す本件は国際的な注目を集めている。
「法律より競争」——幹部の内部発言が証拠に
2026年9月17日、ニューヨーク南部地区連邦裁判所に提出された書類が公開され、Authors Guild v. OpenAI(および関連クラスアクション Alter v. OpenAI and Microsoft)の訴訟に大きな転機をもたらした。
原告には、Authors GuildのほかGeorge R.R. Martin、John Grisham、Jonathan Franzen、Jodi Picoultら著名な作家が名を連ねる。提出された申立書(Docket 1982、Docket 1987)は、OpenAIとMicrosoftの幹部・従業員が違法性を認識しつつも意図的に行動したと主張するもので、内部Slackメッセージや会議記録を証拠として詳細に裏付けている。なお、本訴訟はいまだ係属中であり、以下の発言・文書の法的評価は司法によって判断される。
「失業させるとわかっていてリリースする」
最も注目を集めているのは、当時OpenAIのポリシーディレクターを務めていたJack Clarkが2020年5月に残した内部発言だ。
「我々のAIと創造性に関する研究は、ますます人間の労働を代替するシステムを生み出すことになる……GPT-Xで成果を上げれば上げるほど、ジャンル小説の作家たちは我々が自分たちに取って代わることを恐れるようになる」
「我々の研究は人々を失業させる……アーティストたちが懸念を表明する時点が来るだろうが、我々はおそらく彼らの懸念を無視してリリースするだろう」
原告側はこの発言を「意図的な無視を明言した記録」として位置づけており、AI著作権訴訟の証拠としては異例の性質を持つ。
さらに、2022年にOpenAIがライティング品質向上のために採用したTarun Gogineniの発言も記録されている。彼の「研究ミッション」は、George R.R. Martinの未完シリーズ『氷と炎の歌』の残り2冊をGPTに書かせることとされており、文書には「万一Martinが作品を完成できなくても、GPT-5が彼のシリーズを補完してくれると思えば安心できる」という趣旨の発言が残っていたとされる。
Gogineniはまた、作家たちが「データセットは盗まれている」と訴えていることを認識しつつも、その不満を「さほど同情的に思えない」「受け入れ可能な経済的混乱」と表現。さらに「機械がさらなる機械のためにコンテンツを生成するだけの世界では、読書文化の終焉が訪れる」とも記していた。
LibGen問題——Bill Gatesへの報告と証拠隠滅
LibGen(Library Genesis)は、書籍や論文を違法に公開していることで知られるロシア系のファイル共有サイトだ。
文書によれば、2019年4月の時点で、Sam AltmanとDario Amodeiがビル・ゲイツおよびMicrosoftのCTO Kevin ScottにGPT-3の初期版をプレゼンした際、LibGenの使用を明示していた。Microsoftは当初からこの事実を知っていたことになる、と原告側は主張している。
当時OpenAIで研究ディレクターを務めていたDario Amodeiは学習データとして「やや怪しい」と評し、研究者のMcCandlishは「『OpenAIが怪しいロシアのウェブサイトの著作権データを使っている』がHacker Newsに上がるのはまずい」と懸念を示した——法的リスクではなく、イメージリスクとして認識していた点が原告側の主張の核心となっている。
その後、2022年夏に「Project Clear」と呼ばれる社内プロジェクトの下、OpenAIはLibGenのファイルを削除した。2022年6月15日のSlackでは幹部が「LibGenへの言及がGoogleドキュメント・Slack・GitHubに散在している」と指摘。OpenAI研究担当VPのBob McGrewは「今がLibGenをシステムとストレージから除去する適切なタイミングだ」と返信していたとされる。
訴訟の現状と今後
本件はマンハッタンで係属中の多数当事者統合訴訟(MDL: Multidistrict Litigation)の一部であり、リード弁護士はSusman GodfreyのJustin A. Nelsonが務める。Authors Guild CEOのMary Rasenbergerは「作家の作品への露骨な軽視が、繰り返しの意図的な判断によって示された」と述べている。
今後数カ月で追加の申立書が提出され、2027年初頭に審理が予定されている。日本においても、文化庁がAI学習と著作権に関する整理を進めており、本件の司法判断は国内の議論にも影響を与える可能性がある点で注視が求められる。