9月27日、The Next Webが「EU's AI envoy tells commissioners to focus on using AI」と題した記事を公開した。EUのAI特使がモデル開発競争より生産性向上のためのAI活用を欧州委員に促したことを伝える内容だ。
「モデルで勝てなくても、使い方で勝てる」
EUのAI特使、ジム・ハーゲマン・スナベ(Jim Hagemann Snabe)が9月4日、27名の欧州委員を対象とした非公開セミナーで、EUが取るべきAI戦略の方向性を示した。要旨は明快だ。「最高のモデルを作ることより、AIを使って欧州の低い生産性を底上げすることに集中せよ」というものだ。
Politicoが欧州委員会の関係者2名から入手した情報によれば、スナベはAIが医療・農業・輸送・防衛・製造業に貢献できると説明した。
セミナーの1週間前にも、委員会のAI専門家が委員の首席補佐官に対して同様のブリーフィングを実施している。そこで示されたスライドには、米中がモデルと計算能力でリードする現状を認めつつも、「AIの活用」によって欧州が利益を得られるという論拠が盛り込まれていた。具体例として挙げられたのは以下の通りだ。
- 自動運転車向けの試験規制の簡素化
- 個別化医療のためのセキュアなデータ空間
- 農家向けのデジタルアドバイザー
こうした方針は欧州委員会のトップにも共有されている。ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は9月16日の一般教書演説で「フロンティアAIを自ら構築しなくても、最大の価値を得ることはできる」と述べており、スナベの主張と方向性が一致している。
スナベの立場と批判
スナベはジーメンス(Siemens AG)の監査役会会長を務めており、今年6月にフォン・デア・ライエン委員長とテック担当のヘナ・ヴィルクネン委員への助言役として任命された。
ただし、この任命は当初から批判を受けている。ジーメンスがEU AI Act(EU AI法)の規制緩和に関与していた直後のタイミングだったため、利益相反の懸念が指摘された。
委員会報道官のトーマス・レニエは、今回のセミナーは「欧州企業がAIをより速く導入できるようにする方法」についてのものだったと説明している。
反発もある
全員がこの方針を支持しているわけではない。ドイツの欧州議会議員、アクセル・フォスはAI法の執行が遅すぎると批判し、AIエージェントによる最近のハッキング事例を引き合いに出したとPoliticoは報じている。
また、欧州が自前のAI基盤を持つべきだとの声も根強い。9月上旬には、元欧州委員のマルグレーテ・ベステアーと経済学者のフィリップ・アギオンが、2030年までに欧州が世界の計算資源(コンピュート)の15%を保有すべきとの戦略提言を発表している。「活用で勝つ」路線と「基盤を作る」路線の間での議論は続いている。
今後のスケジュールと注目点
スナベのチームは12月まで各産業セクターのAI活用可能性を調査し、年末にかけて新たな政策案を策定する予定だ。最終報告書と戦略の公表は2027年初頭が見込まれている。
この「活用促進」路線が今後の欧州AI政策の基軸になるのか、それとも「基盤整備」を求める声に押されて修正されるのか——スナベの最終報告書が出る2027年初頭に向けて、議論の行方は引き続き注目される。EUをターゲット市場とする企業にとっても、規制・調達・導入支援の方向性に直結する動向として見逃せない。
詳細はEU's AI envoy tells commissioners to focus on using AIを参照していただきたい。