9月26日、Ray Brennanが「Researchers unveil AI that can build viruses from scratch, fear who uses it next」と題した記事を公開した。AIがウイルスをゼロから設計できることを研究者が実証し、バイオウェポンへの転用リスクが専門家の間で懸念されている状況について詳しく紹介されている。
AIがウイルスを「設計」できる時代へ
スタンフォード大学とArc Instituteの研究チームが、DNAファウンデーションモデル「Evo 2」を発表した。このモデルはウイルスのゲノム配列をゼロから生成できる能力を持つ。Arc Instituteはスタンフォード大学・UCサンフランシスコ・UCバークレーが連携する独立型研究機関であり、AIと生命科学の融合を専門とする。Evo 2はそのフラッグシップ成果として位置づけられている。
同時期に、AI企業Anthropicも、自社モデル「Claude」が潜在的に危険な生物学的研究に利用されているとみられるケースを複数確認・公表した。
この2つの動きが、デュアルユース技術(正当な研究目的で開発されたが、悪意ある行為者にも転用できる技術)をめぐる懸念を一気に高めている。AIバイオデザインはここ数年で急速に進展しており、タンパク質構造予測モデル「AlphaFold」の普及以降、創薬・合成生物学の研究スピードは飛躍的に上がった。その反面、同じ技術基盤が危険物質の設計にも応用できるという懸念は研究コミュニティ内で長らく議論されてきた。
Evo 2の技術的詳細
Evo 2は、数百億塩基対規模の生物ゲノムデータで学習した大規模なDNAファウンデーションモデルである。従来のゲノム解析ツールが既知の配列を検索・比較するのに対し、Evo 2は新規のDNA配列を「生成」できる点が本質的に異なる。具体的には、ウイルスゲノム全体をゼロから構成し、生物学的に機能しうる配列を出力することが可能とされている。
この能力は、遺伝子治療用ベクター(ウイルスを運び屋として使う手法)の設計や、耐性菌を標的とするバクテリオファージの開発といった医療応用に道を開く一方で、病原性を持つウイルスの人工設計にも転用できるという構造的なリスクを内包している。
ガードレールなしのモデルが生成したもの
問題の深刻さを示す具体的なデータがある。2025年に実施された研究では、安全対策(ガードレール)を外した状態の「Moremi Bio Agent」をテストした結果、以下の出力が確認された。Moremi Bio AgentはEvo 2とは独立した別のAIエージェントモデルであり、生物学的実験の立案・実行を自律的に行うことを目的として開発されたものである。Evo 2がゲノム配列の「生成」に特化しているのに対し、Moremi Bio Agentは研究プロセス全体をエージェントとして遂行する点で役割が異なる。
テストで確認された出力は以下の通りだ。
- 約1,020種の新規毒性タンパク質
- 約5,000種の有毒小分子
- リシン(生物毒素)、ジフテリア毒素、特定のヘビ毒タンパク質(ジスインテグリン骨格を持つもの)に類似した物質
研究著者らはこう結論づけている。
「本研究は、AIバイオデザインツールのデュアルユース脅威に対する緩和策とセーフガードの緊急な必要性を浮き彫りにする。」
Anthropicの対応と業界・規制議論の現状
Anthropicは、危険な利用が疑われるケースを検知した際にアカウントをBANし、調査結果をモデルのセーフガードや脅威インテリジェンスのプロセスに反映したと説明している。
一方、この脅威評価に対する業界の反応は割れている。Science誌の報道によれば、「壊滅的な災害につながりかねない」と警鐘を鳴らす声がある一方、「Anthropicが公表した事例は基礎研究の域を出ない」と冷静に見る専門家もいる。
規制面では、米国ではNSABB(国家科学安全保障諮問委員会)がデュアルユース研究の監視を担ってきたが、AIが介在した生物設計ツールへの対応は既存の枠組みでは追いつかない側面があるとされる。AnthropicのCEO Dario Amodeiはバイオテロへの悪用リスクを理由にAI開発の減速を訴えており、AnthropicとOpenAIはともに、受注合成DNA(made-to-order DNA)を販売する企業への規制強化を求める書簡を支持している。具体的には、合成DNA注文時の購入者スクリーニング義務化や、危険配列のデータベース照合を販売プロセスに組み込むことが提言の柱とされている。
医療への応用という「もう一つの顔」
懸念ばかりではない。AI設計ウイルスは、薬剤耐性菌を標的とするバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)の開発に役立てられる可能性がある。薬剤耐性菌は年間100万人以上の死者を出す重大な公衆衛生上の脅威であり、この文脈では治療研究における有望な手段となりうる。
技術の同じ側面が、治療の進歩にも、壊滅的な被害の拡大にも使えるという構造——この二重性こそが、規制や倫理議論の核心にある。Evo 2のようなモデルをオープンに公開するかどうかという問いは、AlphaFoldの公開をめぐる議論と重なる部分もあるが、病原体設計に直結しうるという点でリスクの質が異なると指摘する研究者もいる。
詳細はResearchers unveil AI that can build viruses from scratch, fear who uses it nextを参照していただきたい。