9月26日、Global Newsが「China and the US agree to set up a new AI safety channel, and to keep talking on trade, military」と題した記事を公開した。世界最大のAI開発国である米中が、AIインシデント対応の公式チャンネル設置に合意した。関税・軍事・レアアースといった根本対立が解消されたわけではないが、問題が生じた際にエスカレーションを防ぐための「最低限の構造」を両国が制度化しようとしている点が、今回の最大の注目点だ。
米中がAIインシデント対応チャンネルを設置へ
今回の首脳会談を受け、米中両国はAI関連インシデントを扱う通信チャンネルの設置に合意した。誤作動・サイバーインシデント・自律システムの誤動作といった事態が発生した場合に、両国間で即座に情報共有し、意図せぬエスカレーションを防ぐための枠組みだ。AI専門対話は11月に開催予定とされており、具体的な運用ルールや通報基準はそこで詰められることになる。
AIガバナンスをめぐる国際的な議論が加速する中、この合意が持つ実務的な意味は小さくない。核兵器時代の「ホットライン」が米ソ間の偶発的衝突を防ぐ安全弁として機能したように、AI時代においても類似の仕組みが求められているという認識が、両国間で共有されつつあることを示している。
「大きな突破口」はなかったが、専門家は評価
中国外務省の声明によれば、両軍の危機通信を強化し危機を防止するための覚書(MOU:Memorandum of Understanding、拘束力のない合意文書)の署名にも合意した。ただし、中国側の発表は1ページにとどまり、詳細は乏しい。
北京に拠点を置くシンクタンク「Center for China and Globalization(CCG)」の王子晨副事務局長は次のようにコメントしている。CCGは中国系ながら比較的独立した立場で米中関係や国際政策の分析を行う民間シンクタンクとして知られており、政府の公式見解とは一線を画した発信をすることが多い。
「両首脳間の個人外交は重要だが、実務レベルの関与、軍同士の対話、危機管理メカニズムへの重点が置かれていることは、その安定をより持続的・制度的なものにしようとする努力を示している」
今回の会談で根本的な対立が解消されたわけではないが、作業部会の設置によって問題のエスカレーションを防ぐ構造を作ることが目的だとアナリストらは見ている。
貿易・軍事・レアアース——その他の合意事項
AI以外の主要合意点は以下の通りだ。
- 貿易休戦を2か月延長。約300億ドル相当の物品に対する相互関税引き下げ作業を継続する。関税引き下げの対象は農産品や季節装飾品など非機微物資が中心で、ハイテク・軍事用途の品目は対象外とされている。
- 中国が米国産石炭を2027・2028年に少なくとも各1,000万メトリックトン輸入することに合意(ホワイトハウス声明)。
- レアアース供給について「適切な水準への回復」を目標に協議継続。中国は昨年、米国の関税への対抗措置としてレアアース(電気自動車・半導体・防衛機器などに不可欠な希少鉱物群)の輸出規制を発動しており、米国やその他の国向け供給が減少している。
- 軍事危機通信のMOU署名に向けた取り組みを加速。
- 次の対面は11月のAPEC、その後フロリダのトランプ・ナショナル・ドラールでのG20。なお、APECの開催地は元記事では言及されていないため、本記事では深圳と断定しない。
- フェンタニル前駆体2種への中国の追加輸出規制を米国が歓迎。法執行当局がフェンタニル関連事件で逮捕に至った事例も双方が言及。
11月のAI対話が次の焦点
今回の合意で最も実務的な進展がAI安全チャンネルの設置だ。ただし、チャンネルが存在するだけでは不十分であり、どのような事象を通報対象とするか、応答時間や担当窓口をどう定めるかといった制度設計の中身が伴わなければ、形骸化するリスクは十分にある。11月の専門対話でどこまで具体的な運用ルールが固まるかが、今後の評価を左右する分岐点となる。
AI安全をめぐる国際的な取り組みとしては、英国主導のAI安全サミットやOECD AI原則といった多国間の枠組みもすでに存在するが、米中という二大開発国が二国間の直接チャンネルを持つことの意味は、それらとは異なる実効性を帯びる可能性がある。制度の外形が整った今、問われるのは運用への意志だ。
詳細はChina and the US agree to set up a new AI safety channel, and to keep talking on trade, militaryを参照していただきたい。