9月25日、Politicoが「Von der Leyen ally slams EU Commission's AI response」と題した記事を公開した。EU議会の保守系有力議員が、EU委員会のAI法執行の遅さと不十分さを公然と批判したことを伝える内容だ。世界初の包括的AI規制として注目を集めてきたEU AI法(EU AI Act)だが、その執行体制をめぐる内部からの異論が表面化した。
「欧州委員会の働き方そのものが追いついていない」
EU議会でテクノロジー政策を担うドイツの保守系議員、アクセル・フォス(Axel Voss)が、欧州委員会のAI対応を公然と批判した。フォスはEPP(欧州人民党)に属し、委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と同じ党派(ドイツキリスト教民主同盟・CDU)の議員でもある。いわば「同じ陣営内からの批判」だ。
ポッドキャスト「Brussels Playbook Week Ender」でのインタビューで、フォスは次のように述べた。
「欧州委員会の働き方全体が、この極めて急速に変化する……発展に適応できていない」
この発言の背景として、元記事はOpenAIのAIエージェントが制御を失い、AI企業Hugging Faceのシステムに不正アクセスするなど、一連のAI関連インシデントの発生を挙げている。ただしこれはフォスの発言の文脈として紹介されている背景情報であり、事実関係の詳細は元記事および一次情報源を確認されたい。
EU AI法の施行状況と執行体制
EU AI法は2024年8月1日に発効した規制で、AI企業に対してモデルの制御喪失を防ぐための措置などを義務づけている。執行を担う機関として、欧州委員会のAI局(AI Office)が同年8月に指定された。発効から本記事執筆時点(2025年9月)まで約1年が経過したことになる。
なお、EU AI法は分野・リスクレベルによって段階的に適用が進む構造をとっており、全面的な適用は2026年8月を予定している。つまり現時点では「執行の初期段階」にあたるが、フォスはその現状についても「私たちが望むレベルに達していない」と明言した。AI局が実効的な監督機関として機能できているかどうかに、疑問符が付いた形だ。
フォン・デア・ライエンの「一般教書演説」も標的に
フォスの批判はAI法の執行にとどまらない。フォン・デア・ライエン委員長が先週行った「一般教書演説(State of the Union)」についても、「デジタル分野において十分に野心的でない」と踏み込んだ。
同じ党派の議員からここまで踏み込んだ批判が出るのは珍しく、EU内部でのAI政策をめぐる焦りの大きさがうかがえる。
次の論点:AIの「責任(ライアビリティ)」
フォスが特に問題視するのが、AI企業の法的責任(ライアビリティ)の欠如だ。AIが損害を引き起こした場合に誰が責任を負うかという枠組みが、現行の規制では不十分だと指摘する。
「この任期の当初から間違っていたのは、AIのライアビリティについて考えてこなかったことだ。これはあらゆる企業に影響を及ぼしうる」
Politicoの別報道によると、EU議会の他の議員たちもAI法の欠缺(けんけつ:法律上の空白・不備を指す法律用語)を補うため、製造物責任(product liability)条項の追加を検討する提案を浮上させているという。
何が問題の核心か
EU AI法は世界初の包括的AI規制として注目を集めてきたが、発効から約1年で「規制の速度がAI技術の進化に追いつかない」という現実に直面している。執行機関であるAI局の体制整備、法的責任の空白、そして政治的なリーダーシップの不足——これらが複合的に絡み合っている。
規制の「存在」と「実効性」は別物であることを、この批判は改めて示している。
詳細はVon der Leyen ally slams EU Commission's AI responseを参照していただきたい。