9月24日、Lim Ai Leenが「Rockwell Automation pairs AI with decades of shop floor know-how so workers can solve glitches faster」と題した記事を公開した。産業オートメーション大手Rockwell Automationが、退職とともに失われてきた熟練技術者の暗黙知をAIに学習させ、現場作業員のトラブル対応を劇的に効率化した取り組みだ。新人の独り立ちまでの期間を9ヶ月から3ヶ月に短縮するという成果は、製造業が抱える「知識の断絶」問題に対する一つの実践的な回答といえる。
「ベテランが去ると知識も消える」問題をAIで解決
製造現場では、ベテランが退職すると同時にその経験・ノウハウが失われるという問題が長年続いている。Rockwell Automationのシンガポール工場でも同様で、機械が止まれば分厚いマニュアルをめくり、それでも解決しなければ経験豊富な同僚を探し回る、という非効率なプロセスが常態化していた。
この課題に対してRockwellが打ち出したのが、「GenAI-Powered Maintenance Copilot」だ。2025年10月から同工場で稼働しているこのAIアシスタントは、現場経験20〜30年のベテランエンジニアたちの知見をデータベース化し、さらに製造ソフトウェアのデータや機械のマニュアルも組み合わせて学習させたものだ。
技術基盤はMicrosoft Azureで、Azure OpenAI ServiceとAzure AI Foundryを使って構築。OpenAIの大規模言語モデルGPT-4o-mini上で動作する。
シンガポール工場のエンジニアリングアシスタントであるMangleswaran Mahalingam氏はその変化をこう語る。
「以前は同僚や上級技術者を探し回って、同じエラーを見たことがあるか聞いて回っていた。今はタブレットのコパイロットに質問を入力すれば答えが返ってくる。早いし、簡単だ。」
「症状・原因・対処」で構造化された知識ベース
このシステムが技術的に面白いのは、単にマニュアルをAIに読ませているのではなく、ベテランの暗黙知を「症状・原因・対処(Symptom / Cause / Reaction)」の形式に構造化してデータベース化している点だ。
機械エラーが検出されると、AIは以下の情報をまとめて提示する:
- 上位の原因候補(摩耗した歯車、センサー不良など)
- 同僚がこの問題についてコメントした内容
- 他の製造ラインで同様の事象が発生しているかどうか
- マニュアルの関連情報(自然言語で質問するとステップバイステップのガイドで返答)
シンガポール工場長のLi Wang氏は「トライバルナレッジ(tribal knowledge)の喪失を防ぐことが最大の課題だった」と説明する。トライバルナレッジとは、特定のコミュニティや職場に長年蓄積されてきた非公式の暗黙知のことで、文書化されずに個人の頭の中に留まっている知識を指す。
数字で見る効果
Rockwellが公表している改善数値は具体的だ:
- 機械のダウンタイム:33%削減
- 整備・部品コスト:約25%削減
- 新人の独り立ちまでの期間:9ヶ月→3ヶ月
最後の数字はRockwellのCSOであるBob Buttermore氏が強調したポイントだ。「数百台の機械のトラブルシューティングを習得するのに9ヶ月かかっていたのが、3ヶ月になった。これは大きな改善だ」。
またMahalingam氏は2021年の入社当初、機械のことを何も知らないまま現場に立ったと振り返る。夜勤を任されるまでに1年以上かかったが、現在は約50台の機械を担当し、ARゴーグル(Microsoft HoloLensのような拡張現実ヘッドセット)でAIにアクセスしながらハンズフリーで作業できるようになった。タブレットと並んでARデバイスがインターフェースの選択肢として現場に導入されていることは、作業中に両手を使う製造現場との親和性の高さを示している。
メンテナンス以外にも広がるAI活用
今回紹介されたメンテナンスコパイロットはシンガポール工場が展開するAI施策の一部に過ぎない。他には:
- マルチエージェントによる品質保証システム:組み立てライン上の製品不良をリアルタイムで検出・対処。複数のAIエージェントが連携して検査・判定・フィードバックを自動化する仕組みだ。製造業におけるマルチエージェントAIの活用は近年急速に広がっており、Rockwellの事例はその実装例の一つといえる
- 予知保全システム:センサーデータをもとに設備の異常を事前に検知し、重要設備の計画外ダウンタイムを防止する。事後対応から予防対応へのシフトは製造業のAI活用における主要テーマの一つだ
シンガポール工場は2026年6月、世界経済フォーラム(WEF)のグローバルライトハウスサイト)に認定された。WEFの評価では「1人時あたりの生産量43%増、不良品35%減、スキル習得時間67%短縮」が挙げられている。
このメンテナンスコパイロットは今後、米国オハイオ州Twinsburgの工場、ポーランド、メキシコにも展開される予定だとButtermore氏は述べている。Rockwellは世界25か所以上の工場と26,000人超の従業員を擁しており、スケールの大きさが伺える。
自社工場を「ショーケース」に
Rockwell自身が産業オートメーションのソリューションを顧客に提供する企業であることを踏まえると、この取り組みには二重の意味がある。自社の生産効率を上げるだけでなく、顧客への提案材料として「自社で実証済みのアプローチ」を示せる点だ。
「まず自社施設でソリューションを展開・テスト・スケールすることで、生産性・レジリエンス・人材効果の向上を目指すメーカーに対して、実証済みのアプローチを提供できる」とButtermore氏は語る。
詳細はRockwell Automation pairs AI with decades of shop floor know-how so workers can solve glitches fasterを参照していただきたい。