9月26日、Mark Tysonが「ChatGPT-6 Astra cracks 1941 Enigma-coded message in two days」と題した記事を公開した。OpenAIのGPT-6 AstraがWWII時代のエニグマ暗号文を自律的にわずか2日で解読した事例を報告している。
2005年から約20年、誰にも解けなかった暗号文をAIが2日で突破
1941年7月10日、ドイツ軍がSS-Totenkopf(髑髏)師団に送信した82文字のエニグマ暗号文「MVUEH」は、2005年にCrypto Cellarというウェブサイトを通じてオンラインの暗号解読愛好家たちに公開された。しかしその内容は約20年にわたって誰にも解読されないまま残されていた。なお暗号文自体は1941年の送信物であるため、送信から現在までは80年以上が経過している。
それをGPT-6 Astraがわずか2日で解読した。
Crypto Cellarの研究者らによれば、Astraが達成したことは「人間の研究者なら数週間、場合によっては数ヶ月かかる」作業だ。研究者たちは現在もログを精査し、Astraがどのような手順でこれを成し遂げたかを追っている段階だという。
人間から指示されたのは「解けそうなのがあれば試してみて」だけ
この件で特筆すべきは、GPT-6 Astraが完全に自律的に動いた点だ。
研究者がAstraに与えた指示は、Crypto Cellarのウェブページに掲載されている未解読エニグマ暗号文のうち「解読できそうなものがあるか」という問いかけだけだった。Astraはその中からMVUEH(No.172)を自ら選択し、同じくリストに載っていたNo.173(SIPVX)の平文と関連がある可能性を推定。さらに「ROSENOW ROSENOW」という地名が平文中に繰り返されるだろうという仮説を立てた。
この仮説を検証するため、AstraはPythonとC++でエニグマ・シミュレーターおよびエニグマ・ボンベ(解読装置)のコードを自ら書き、実行した。ログの精査はまだ続いているが、現時点で確認されている推論ステップとしては、①既知平文(No.173)との文脈的関連付け、②地名反復という言語的パターンの仮説化、③それを検証するためのシミュレーター自作、④総当たり的なローター設定探索、という流れが報告されている。
暗号文は以下のとおり:
ICRVSORMCCWQTATYEVFXDBZGGSNXWLPSYWZYTCBSWULRTBZCVGODVJUSLSOOMJQJZSXSEBZPEYMDNXJYTC
解読後(スペース補完済み):
BTTE UM ANGABE DES MARSQWEGES X BEFINDE MIQ IN X ROSENOW ROSENOW X SOFORT FUNKANTWORT X WASCHBBSCH
英訳すると「行軍ルートを指示してほしい。現在ロゼノウにいる。至急無線で返答を」という内容だ。元のメッセージには冒頭に誤字があり、それが解読をさらに難しくしていたとも指摘されている。
エニグマ機とは何か
エニグマは26キーのキーボードと、上部に配置された26文字のランプボード(押したキーに対応する文字が光る)で構成されている。内部には5種類のローターから3つが選ばれて設置され、キーを押すたびにローターが1段進む仕組みだ。同じキーを連打しても毎回異なる文字が点灯するため、単純な頻度分析は通用しない。さらに前面のプラグボードで最大10組の文字を入れ替えることができ、解読難度を大幅に引き上げていた。
暗号通信を行うには、ローター順序・リング設定・ローター初期位置・プラグボード接続という4種類の設定が必要で、これらは日ごとに変更されるカレンダー式の運用が取られていた。エニグマ本体を入手しても、その日の設定を知らなければ解読は不可能という構造だ。
Astraが自作した「エニグマ・ボンベ」は、アラン・チューリングらが第二次世界大戦中にBletchley Parkで開発した電気機械式解読装置「ボンベ」にならったものだ。ボンベは特定の平文の推測(クリブ)をもとにローター設定を絞り込む手法を取っており、完全なデジタルコンピュータではなく電気機械式の専用装置として設計された。Astraが同様のアプローチをソフトウェアで再現した点は、当時の解読手法の本質的な継承といえる。
先週も別の暗号を解読したばかり
GPT-6 Astraによる暗号解読はこれが初めてではない。Tom's Hardwareが先週報じた記事によれば、AstraはADFGVX方式で暗号化された108年前のWWI時代のドイツ語暗号も解読している。ADFGVX暗号は1918年にドイツ軍が使用した分数転置暗号で、当時のフランス軍暗号解読者Georges Painvinが解読に成功したことで知られる。Astraによる解読はその現代的な再現にあたる。
自らシミュレーターを実装し、仮説を立てて検証するというアプローチは、従来のAIが「与えられたタスクをこなす」という枠を超え、問題設定そのものから自律的に行動している点で一線を画す。
詳細はChatGPT-6 Astra cracks 1941 Enigma-coded message in two daysを参照していただきたい。