9月26日、The Next Webが「Bill Gates warns AI could cause a billion deaths and says self-regulation is not enough」と題した記事を公開した。AI規制をめぐる議論が米国・EU双方で加速するなか、Microsoftの共同創業者ビル・ゲイツが「自主規制では不十分」と明言し、政府による強制的な監視の義務化を訴えた。しかしゲイツが求めるような法的枠組みはEUにすでに存在する——問題はそれが使われていないことだ。
ゲイツの発言:「10億人が死亡しうる」
Microsoftの共同創業者であるビル・ゲイツは、米NBCの報道番組「Meet the Press」向けインタビューの抜粋の中で、AIは10億人の死につながる事態を引き起こすほどの力を持つと語った。「悪意ある人間が最新のAIツールを使えば、これほど強力な兵器はこれまで存在しなかった」というのが彼の言葉だ。
ただし、この発言で本質的に新しいのは数字の大きさではない。ゲイツがこれまでと異なる立場を示したのは政策論の部分だ。「自主規制では不十分であり、セーフガードと監視のあり方について、法執行機関と政治家が議論に加わる必要がある。それは義務であるべきだ」と明言した。
EUはすでに動いている
ゲイツが訴える「強制的な監視体制」は、すでにEUでは法律として存在する。
EU AI法第55条は、システミックリスクを持つ汎用AIモデルの提供者に対し、2025年8月より以下を義務付けている:
- 敵対的テスト(レッドチーミング)の実施
- EU全体でのリスク評価
- 重大インシデントの遅滞ない報告(サイバーセキュリティ侵害は5日以内、重大な被害は15日以内)
さらに2025年8月2日からは欧州委員会が制裁権限を持つ。違反した提供者には、世界年間売上高の3%または1,500万ユーロのいずれか高い方が上限として科せられる。禁止行為に該当すれば最大7%だ。モデルへのアクセス要求、評価の命令、公開制限の命令も可能になった。
問題は「法律があるかどうか」ではない
制裁権限が発動して以来約7週間が経過した時点で、モデル提供者に対する執行措置は報告されていない。施行直後という事情はあるものの、この期間に唯一起きたことといえば、OpenAIがドイツのWikiを自社エージェントが占拠した件について自主的にインシデントレポートを提出したことだ——企業が自分自身を報告した形だ。
一方、AnthropicはAI規制の独自フレームワークを提案している。2025年6月に公開したその文書は、危険なデプロイメントを政府がブロックできる権限や、学習計算量・AI支出に基づく閾値設定などを提案するものだが、元記事によればEUについての言及が一切ない。Anthropicが提案するアーキテクチャの多くは、すでに2024年からEUの法律に書かれていた。
結局、問題は「誰が使うか」
ゲイツが訴える「義務的な監視」「当局の関与」は、一つの大陸(EU)ではすでに制度として存在し、別の大陸(米国)では今まさに議論されている状況だ。
問われているのは「そういう法律を書けるか」ではなく、「すでに書かれた法律を誰かが実際に使うかどうか」だ。
詳細はBill Gates warns AI could cause a billion deaths and says self-regulation is not enoughを参照していただきたい。