9月26日、Techstrong AIが「Enterprise AI Investment Surges as ROI Improves and Internal Skills Rise: ETR Study」と題した記事を公開した。エンタープライズAI市場で大きな地殻変動が起きている。アプリケーション開発用途における開発者評価で、AnthropicのClaudeがOpenAIのGPTをついに逆転したのだ。ETR(Enterprise Technology Research)の最新調査が示すこの事実は、モデル競争の構図が変わりつつあることを示す象徴的なデータとして注目を集めている。
ETR調査の概要
本調査を実施したETR(Enterprise Technology Research)は、主にCIO・IT意思決定者・技術職層を対象にした定量的な企業向けテクノロジー調査を専門とする調査機関だ。今回の調査は2024年後半に実施されており、エンタープライズにおけるAI投資動向・ROI・モデル採用状況・インフラ選定などを幅広くカバーしている。サンプルの属性はITアナリスト、アーキテクト、エンジニアから経営層まで広範に及び、3月時点との比較データを軸に傾向を読み取れる構成となっている。単なる意識調査ではなく、実際の導入・運用実態を問う設問設計が特徴で、数値の信頼性は業界内でも高く評価されている。
開発者評価でClaudeがGPTを逆転
今回の調査で最も目を引くデータが、モデルの開発者評価における順位変動だ。AnthropicのClaudeがアプリケーション開発用途でOpenAIのGPTを抜き去った。タイトルに掲げた「逆転」は誇張でも比喩でもなく、数字が直接示している。
Claudeの利用率は69%(3月時点の48%から急伸)に達し、GPTの62%を上回った。さらに注目すべきは、技術職層——アナリスト、アーキテクト、エンジニア——における格差だ。この層ではClaudeがGPTに対して14ポイントのリードを持ち、エグゼクティブ層(7ポイント差)の2倍の開きがある。
実際にコードを書き、設計を行う層ほどClaudeを選ぶ傾向が強いという結果は、開発現場の評価がビジネス側の認知とはズレていることを示している。ブランド認知ではなく、実務での使い勝手や出力品質が評価軸になっているとすれば、この傾向は今後さらに拡大する可能性がある。
ROI実感が過半数に到達
企業の52%がAI投資からの正のROIを報告しており、3月比で4ポイント上昇した。ゼロリターンと答えた企業は24%まで低下している。投資対効果への懐疑が依然根強かったエンタープライズAI市場において、過半数がROIを実感するフェーズに入ったことは、普及曲線における大きな転換点と言える。
ただし、リターンの規模は控えめで、40%の企業が「1〜25%のリターン」と回答している。劇的な効率化よりも、着実な改善の積み重ねとして成果が現れている段階と読むのが妥当だろう。
AI支出を増やす予定の企業は**82%で、3月の水準を維持。さらに、全ITバジェットの20%以上をAIアプリケーションに充てている企業が24%**に達した。投資意欲の持続と予算配分の拡大が同時進行していることは、一過性のブームではなく構造的な移行が進んでいることを裏付けている。
コスト管理が本格化
投資拡大と並行して、推論コスト(インファレンスコスト)の管理も厳格化している。AIモデルを本番運用すると、ユーザーのリクエストごとにモデルを動かす「推論」処理が大量に発生し、そのAPI利用料や計算リソースコストが積み上がる。規模が拡大するほどこのコストが経営上の課題になるため、各社が対策を講じ始めているのが今回の調査でも明確に表れた。
最も普及しているコスト制御手法はトークン消費の上限設定で、59%が採用(3月比9ポイント増)。モデルルーティング(34%)、キャッシュ活用・量子化・小型モデルの活用(各31〜35%)が続く。なお、量子化(quantization)とは、モデルの重みデータの数値精度を下げることで計算量とメモリ使用量を削減する技術で、精度をわずかに犠牲にしながらも推論コストを大幅に抑えられる手法として広く使われている。コスト管理を何も実施していない企業は**13%**まで低下しており、"使いっぱなし"から"管理しながら使う"フェーズへの移行が進んでいる。
内製化が進み、外部依存が後退
エンタープライズにおけるAI活用の成熟度上昇は、ベンダーエコシステムの再編を招いている。**サードパーティコンサルタントへの依存度は8ポイント低下し28%**となった。企業の70%が既存開発者のスキルアップを進め、52%が専門人材の採用を行っているが、49%は依然としてスキル不足を課題として挙げている。内製化の意志は強いが、人材供給がそれに追いついていないという構造的なギャップが浮かび上がる。
本番環境での用途としては、従業員向けサポートツールが46%でトップ。エンタープライズ検索(42%)、データ分析(40%)が続く。外部向けアプリケーションではカスタマーエンゲージメント用チャットボットが38%だった。
マルチモデル運用が標準に
単一モデルプロバイダーのみで運用する企業は10%まで落ち込み、6割の企業が複数のモデルプロバイダーを本番環境で並列運用している。用途や性能・コストに応じてモデルを使い分ける「マルチモデル戦略」が、特定ベンダーへのロックインを避けるうえでも現実解となっていることが読み取れる。
オープンウェイトモデル(モデルの重みが公開されているもの)の採用も進んでおり、26%が重要な選定要素として挙げる。カテゴリ首位はGoogleのGemma(16%)で、MetaのLlama、MicrosoftのPhi、Mistral(各9%)が続く。
インフラ面ではMicrosoftが引き続き優位を維持しており、クラウドホスティングで**64%**(AWSの54%に対して)、ベクターデータベースで36%、ID管理(Entra)で47%、オブザーバビリティ(Azure Monitor)で44%のシェアを持つ。クラウドからID管理・モニタリングまでMicrosoftのスタックで統一できる一貫性が、エンタープライズ調達の意思決定に影響していると考えられる。
エージェントリスクへの警戒が急伸
リスク管理の面では、データプライバシー(75%)とセキュリティ脆弱性(67%)が引き続き最上位の懸念事項だ。一方、**自律型AIエージェントによる不正アクセスを正式にモニタリングする企業が52%**に達し、3月比で9ポイント急増した。
AIエージェントとは、与えられた目標に対してツール呼び出しや外部システムとの連携を自律的に繰り返すAIシステムを指す。人間の介在なしに行動できる分、誤操作・権限逸脱・データ漏洩のリスクも従来のAI利用より高まる。この急増は、エージェント型AIの本番導入が現実のものとなり、セキュリティ管理の枠組みを整備しなければならない段階に入ったことを示している。
詳細はEnterprise AI Investment Surges as ROI Improves and Internal Skills Rise: ETR Studyを参照していただきたい。