9月25日、Vivian Tranが「Software engineer says AI coding leaves developers 'working 12 to 13 hours a day just to press enter'」と題した記事を公開した。この記事では、AIコーディングツールの普及によってエンジニアが「承認ボタンを押すだけ」の仕事に変容しつつあるという現場の声について詳しく紹介されている。
「誰も考えなくなった」——5万いいねを超えたXの投稿
あるソフトウェアエンジニアがXに投稿した内容が、記事公開時点で約500万ビューを集め、テック界隈で広範な議論を巻き起こした。
投稿者は自身の新しいソフトウェアエンジニア職を「魂を吸い尽くされるような仕事(soul-sucking)」と表現した。Anthropicが開発したAIコーディングエージェント「Claude Code」が、プロダクト仕様、テスト、チケット、レポートのほぼすべてを処理しており、エンジニアに残された役割はその出力を承認することだというのだ。
「ここでは誰も何もわかっていない。……みんな、ただEnterキーを押すだけのために1日12〜13時間働いている。」
さらに彼はこう続けた。
「誰も考えなくなった。」
会社はとにかく大量に機能を出荷することに注力しており、エンジニアがそのコードを精査したり、内部の動作を理解したりする時間はほとんど与えられていないという。
「コードを書くことがボトルネックではなかった」
Business Insiderの取材に対し、このエンジニアはより踏み込んだ見解を示した。
「コードを書くこと自体がボトルネックだったわけではない。問題はその周辺のシステムだ。」
彼の指摘は、マネジメントがスプリントサイクルの消化数やプルリクエスト数、リリースした機能の量を「進捗の証拠」として扱ってしまっている点にある。それらがユーザー体験の改善につながっていなくても、だ。
なお、スプリントサイクルとはアジャイル開発における1〜2週間程度の短い開発反復単位を、プルリクエストとは変更したコードをレビューしてもらうための申請手続きを指す。いずれも開発現場でよく使われる指標だが、このエンジニアはそれらを「こなすこと」が目的化している状況を問題視している。
著名人も反応——「スロットマシンの前でボタンを押す人間になる」
この投稿にはテック業界の著名人も反応した。
xAI・X CEOのイーロン・マスクはシンプルに「Yikes(うわ)」とコメント。ベンチャーキャピタリストのChamath Palihapitiyaは、AIコーディングの使い方を誤れば、技術者の世代全体が「カジノのスロットマシンの前でボタンを押す人間」に変わってしまうと警告した。
一方でPalihapitiyaはこう述べ、あるべき方向性も示した。
「自動化されたソフトウェアの価値は、ソフトウェアを速くすることではない。開発者の意図を理解し、ソフトウェアをより良くすることだ。」
GitLab CEOのBill Staplesは端的に言い切った。
「人間は、機械のためのオーケストレーション層になってしまった。」
Menlo VenturesのパートナーDeedy Dasは、AIが生成したコードのレビューを主な業務とするエンジニアの間に「アイデンティティ・クライシス、うつ病に近い状態」が広がっていると指摘している。
AIコーディングツールが変えた「エンジニアの仕事」
元記事が掲載するのは抽象的な業界論にとどまらない。この投稿が際立つのは、「AIに仕事を奪われる」という従来の議論とは異なる次元の問題——すなわちAIツールは雇用を消すのではなく、エンジニアの思考そのものを奪う形で仕事を変質させているという当事者の証言にある点だ。
Anthropic、OpenAI、Googleといった各社がコード生成・デバッグ・マルチステップタスクの実行を可能にするツールを競うように投入してきた結果、開発現場ではAIの出力を承認・監視することが主業務となるケースが生まれている。「繰り返し作業が減って良い」と捉える層がいる一方、「問題を自分で解くのではなく、AIの出力物を確認するだけの仕事になった」と感じる層も確実に存在する。
当の投稿者はこう訴えた。
「それ(考えること)が奪われたら、何も残らない。魂すらも。目的がなくなる。」
詳細はSoftware engineer says AI coding leaves developers 'working 12 to 13 hours a day just to press enter'を参照していただきたい。