9月25日、パキスタンの大手英字紙The Newsが「China overtakes US as top workplace for AI researchers」と題した記事を公開した。シンクタンクCarnegie Chinaが実施したAI人材調査の結果を伝える内容で、中国が世界の主要AI研究者の主要な勤務先として米国を上回ったことが明らかになっている。
中国が米国を逆転:AI研究者の41% vs 34%
今回の調査は「Who's ahead in the global AI talent race?」と題され、Carnegie China所長のDamien Maと楊斌毅(Yang Binyi)が共同執筆した一次報告書に基づく。機械学習分野のトップ学会のひとつである**2025年Neural Information Processing Systems(NeurIPS)**の採択論文著者のうち約1万280人(全採択論文著者の約40%に相当するサンプル)を対象に、現在の勤務国・学部卒業校・キャリア経路を分析したものだ。なお、Carnegie Chinaの報告書原文は公開されているが、The Newsの記事は同報告書を引用・要約した二次報道である。
その結果、2025年時点で**中国に勤務する研究者は41%、米国は34%**にとどまることが判明した。わずか3年前の2022年には米国46%・中国27%という構図だったが、完全に逆転している。
「シリコンバレーと遜色ない報酬」が引き留める
この逆転の背景には、単純な政治的対立だけでなく、中国国内のAI産業そのものの成熟がある。
Damien Maは今回のシフトを「プッシュとプルの両方が働いた結果」と表現している。
プル要因としては、DeepSeekやMoonshot AIといった中国AI企業の台頭が挙げられる。これらの企業が提示する報酬水準はシリコンバレーと「かなり比肩するレベル」に達しており、研究者が中国国内にとどまる経済的な動機が強まっている。研究環境の整備や国内プロジェクトの規模拡大も、優秀な人材を惹きつける要素として機能している。
プッシュ要因としては、米国側のビザ規制強化がある。ワシントンは中国の「軍民融合政策」に関連するとみなされた大学の出身者に対してビザ審査を厳格化しており、米国での研究キャリアを目指す中国人研究者にとっての障壁が高まっている。この点は後段で改めて詳述する。
Moonshot AIのCEOである楊植麟(Yang Zhilin)はその象徴的な存在だ。カーネギーメロン大学でPhDを取得した後、中国に戻って自社を創業している。
学部教育から変わる人材の出所
調査で特に目を引く数字が学部卒業校の分布だ。
- **中国の学部出身者が57%**(2022年比で11ポイント増)
- 米国の学部出身者はわずか13%
さらに、中国の学部を卒業した研究者のうち**母国に残る割合が69%**(2022年は57%)に上昇している。国内の雇用機会の改善と、米国のビザ政策の厳格化が重なった結果であり、かつての「海外流出→米国定着」というキャリアパスが標準でなくなりつつある。
米国はまだ「海外人材を引き寄せる力」で優位
ただし、米国が全面的に劣勢というわけではない。第三国から米国に移って研究を続ける研究者の数では、依然として米国がリードしている。また、中国の学部出身で米国に在籍する研究者も、昨年比で4ポイント増加している。
ビザ環境については、複雑な状況が続く。前述のとおり、ワシントンは軍民融合関連大学の出身者に対するビザ審査を強化してきた。一方、中国側も2024年9月15日以降、輸出規制に違反した個人に対して出国制限を新たに設けており、人材の流動性に対して双方向の規制が働いている。プッシュとプルの力学は、こうした制度的な制約とも不可分に絡み合っている。
数字が示す構造変化
今回の調査が示すのは、一時的なトレンドではなく、AI人材の地政学的な構造変化だ。中国企業の競争力向上・報酬水準の上昇・国内研究環境の整備が重なり、優秀な研究者が必ずしも米国を目指さない状況が定着しつつある。DeepSeekが2025年初頭に国際的な注目を集めたことも、こうした文脈と切り離せない。
詳細はChina overtakes US as top workplace for AI researchersを参照していただきたい。