9月25日、nyaa.shが「Mac Mini M6: Retro PC Emulation with 86Box (600MHz PII?!)」と題した記事を公開した。Mac Mini M6上でレトロPCエミュレーター「86Box」を用いてPentium II 600MHz相当の動作を安定実現した実験レポートで、M4 Mac Miniが超えられなかった500MHzの壁を突破した結果が詳述されている。
86Boxはレトロ時代のPCをハードウェアレベルで忠実に再現するエミュレーターだ。CPUタイミング、チップセット挙動、ISA/PCIバス、グラフィックチップセット、サウンドデバイス、ディスクコントローラまで当時の挙動を模倣するその精度の代償として、ほぼすべての処理負荷が1本のホストスレッドに集中する。コア数は関係ない。1コアをどれだけ速く、どれだけ長く高クロックで走らせ続けられるか——それだけが勝負になる。Apple SiliconへのARMアーキテクチャ移行以降、x86エミュレーターとの相性が問われ続けてきたが、M6世代でその答えが出た形だ。
M4が500MHzで止まるところを、M6は600MHzで通過した
結論から言う。M4 Mac Miniの安定限界だった500MHzを、M6は600MHzまで引き上げた。差にして20%。数字は小さく見えるが、エミュレーションの世界では「通る/通らない」の二値であり、550MHzでも600MHzでもM4はいずれも失格だ。
Apple SiliconのP(パフォーマンス)コアはまさにここが強い。M6ではテスト中にcpu6とcpu7(2つのスーパーコア)が集中的に使われ、600MHzのテスト中の平均クロックは約4,710MHz、ピークは4,788MHzに達した。コア使用率は450MHz時点で各コア約41%、600MHzでも45〜49%に留まり、まだ余裕がある状態だ。パッケージ全体の使用率は26%を超えなかった。M4の同構成での動作クロックは約3.7GHzであり、この差が500MHz止まりの主因とみられる。

650MHzでの動作試験中。1〜2回のオーディオアンダーランが発生したため、安定結果は600MHzとされた。
「100%を割ったら失格」という厳格な判定基準
86Boxは目標速度に対する実効エミュレーション速度をパーセントで表示する。100%を下回った瞬間、そのランは失格だ。理由は単純で、サウンドハードウェアはリアルタイムで処理されるため、バッファが枯渇すると音飛びとして即座に聴覚に届く。「平均100%」では不十分で、一瞬も下回らないことが条件だ。
テストの負荷は意図的に重くなっている。Cinebench 2000のCPUテストをWinamp 2.76(44,100Hz 16bit PCM WAV再生)と同時実行し、Winampのリアルタイム音声再生がボトルネックの検出器として機能する設計だ。
テスト構成は以下で固定されている:
- Slot 1マザーボード(1997〜1999年頃のPentium II世代向けソケット規格)+ Pentium II(開発コード名:Deschutes)、クロックのみ変動
- メモリ256MB
- Voodoo 3(ビデオメモリ16MB、2スレッド)
- Windows 98 SE
なお、86Boxの標準周波数テーブルはPentium IIの実在クロックまでしかカバーしないため、筆者は50MHzステップで800MHzまで拡張するパッチを自作した。パッチファイルは公開されており、86Box 6.0(2026年5月31日リリース)のタグ付きコミットに対して適用できる。
結果一覧
| エミュレートクロック | Cinebench 2000 | M6 | M4 |
|---|---|---|---|
| 300MHz | 4.62 CB | Pass | Pass |
| 350MHz | 5.34 CB | Pass | Pass |
| 400MHz | 6.16 CB | Pass | Pass |
| 450MHz | 7.02 CB | Pass | Pass |
| 500MHz | 7.73 CB | Pass | Pass |
| 550MHz | 8.54 CB | Pass | Fail |
| 600MHz | 9.28 CB | Pass | Fail |
| 650MHz | 10.08 CB | Fail | Fail |
600MHzではCinebench 2000を2回完走し、3DMark 2000 SEのデモを7〜8分間ノンストップで100%維持した。650MHzは1〜2回の音飛びで失格、800MHzは持続不可だった。
実機との比較で出てきた奇妙なズレ
Ars Technicaフォーラムのスレッドに集められた実機のCinebench 2000スコアと比較すると、86Boxのスコアは実機を大幅に上回る。エミュレートした450MHz PIIの7.02 CBは、実機の450MHz PIIの4.35 CBより61%高い。エミュレートした600MHzの9.28 CBは、実機のPentium III Coppermine 800MHzの9.25 CBとほぼ同値という結果も出た。
筆者はこの乖離の原因を断定していない。メモリ帯域やキャッシュタイミングの再現精度が関係している可能性を挙げつつ、86Box v3.0のリリースノートでも「アウトオブオーダー実行とL2キャッシュ挙動の複雑さからP6世代(Pentium Pro/II/IIIが採用したIntelのマイクロアーキテクチャ)のエミュレーションは完全には正確でない」と記載されていることを引用している。つまり、Cinebench 2000のスコアは実機との性能比較には使えないが、この86Box構成内でのスケーリング確認には有効だ。
また、86Box 6.0ではARMホスト向けのCPUエミュレーション性能が改善され、Voodooグラフィクス向けのARM64 JITリコンパイラが追加された。今回の構成はVoodoo 3を使うため、この改善の恩恵を直接受けている。Apple Siliconのコア性能だけでなく、ソフトウェア側の進化も結果に貢献している点は留意が必要だ。
1990年代のPCが、静音デスクトップの中で生き続ける
筆者は「ベンチマーク数値と状況証拠から、今の仮想システムはPentium IIIの領域に位置する」と述べ、元記事によれば€1,600以下とされるMac Mini M6の価格帯で小型・静音デスクトップがここまで実現できる点を強調している。M6のシングルコア優位が「グラフの数字」ではなく「体感できる差」として現れた実例だ。次のステップとして、Windows XPのエミュレーションにも挑戦したいと言及している。
詳細はMac Mini M6: Retro PC Emulation with 86Box (600MHz PII?!)を参照していただきたい。