9月19日、Nielsen Norman Group(NNGroup)が「The 3 Roles of Context for AI Agents」と題した記事を公開した。AIエージェントを日常的に業務利用するClaudeのパワーユーザーを対象にした調査から導き出されたもので、コンテキストを「グローバル」「ローカル」「アンビエント」の3種類に分類・管理するフレームワークを紹介している。
なぜ今、コンテキストが問われているのか
AIエージェントの実用化が進むにつれ、「どう指示するか(プロンプティング)」よりも「何を渡すか(コンテキスト設計)」が成果を左右するという認識が広まりつつある。NNGroupがこの調査を実施した背景にも、そうした実務上の変化がある。単発のチャットではなく、複数のツール・ファイル・外部サービスと連携して長期的なタスクをこなすエージェント型のAI利用が一般化してきた今、パワーユーザーたちがどのような情報管理の実践を積み上げているかを体系化することには、実践的な意義がある。
なお、本調査の対象はAnthropicが開発するAI「Claude」のヘビーユーザーに限定されており、AIエージェント全般を網羅した調査ではない点に留意が必要だ。
「良いプロンプト」より「良いコンテキスト」
NNGroupがClaudeのパワーユーザー(日常的に業務でAIエージェントを使う人々)を対象に調査したところ、全参加者が共通して「コンテキストライブラリ」を構築していた。これはClaudeが参照するファイル群、データベース、ライブ接続の集合体だ。
記事が指摘する核心はシンプルだ。「コンテキストを適切に整備することは、今や良いプロンプトを書くことよりも重要」。コンテキストが不足すると、AIは汎用的で的外れな出力を生成し、ユーザーのニーズやビジネス目標を反映できない。
3種類のコンテキストとその役割
調査の参加者が持つライブラリの形式は様々だったが、そこに含まれる情報は一貫して以下の3つの役割のいずれかを担っていた。
1. グローバルコンテキスト(Global Context)
タスクをまたいで適用される、変化の少ない情報。エージェントの高レベルな推論と優先順位を規定する。
具体例(調査参加者の実例より):
- ユーザー固有の情報:生活環境や好みなど、過去の会話からAIが保存したプロフィール情報。異なるトピックのセッションでも参照される
- ベストプラクティス:「この種の仕事が良くできているとはどういう状態か」を定義したガイドライン・テンプレート
- ガバナンスルール:どのアクションにユーザーの承認が必要で、どれをClaudeが自律的に実行してよいか
- 参照書籍リスト:ある参加者はClaudeに「この書籍群の原則に従って作業すること」と指示するマークダウンファイルを用意していた
- ブランドガイドライン:個人ブランドのカラーコード(Hex値)や視覚的ルール
グローバルコンテキストの価値は、「毎回のプロンプトでこれらを指定しなくてよくなること」にある。
2. ローカルコンテキスト(Local Context)
特定のタスクやプロジェクトにスコープされた情報。AIが直接読み書きするファイルや外部データベースに格納される。
調査参加者の実例:
- タスクリスト:Claudeがプロジェクト別に生成・更新する優先度付きToDoリスト(マークダウンまたはTodoistに保存)
- エージェントスキル:特定タスクの作業手順をマークダウンに体系化したもの
- チェンジログ:作業セッション終了時にClaudeが自動更新するプロジェクト変更記録
- 外部データベースのレコード:ある参加者は就職活動の情報(企業名・役職・選考状況)をNotionに保存し、Claudeに読み書きさせていた
ローカルコンテキストの特徴は、Claudeが「読む」だけでなく「書いて更新する」対象であること。ただしユーザーが現在制作中の成果物(ドキュメント本体など)とは区別される。
3. アンビエントコンテキスト(Ambient Context)
最もノイズが多く、最大規模の情報ストリーム。メール、ミーティングトランスクリプト、チャット履歴など、事前に整理されていない生の情報群だ。
ある参加者の言葉が本質をよく表している:
「(一部のドキュメントは)確かに役に立つが、その瞬間に必要なだけで、二度と使わないかもしれない。でも、コンテキストとして残しておく必要はある……たとえば電話の通話記録に使ったGoogleドキュメントとか」
調査参加者はアンビエントコンテキストを整理・クリーニング・フォーマット化しようとしなかった。時間がないからだ。代わりに、MCP(Model Context Protocol)接続やAPIキーを通じてClaudeをソースに直接つなぎ、「Claudeに任せてふるい分けさせる」アプローチをとった。MCPはAnthropicが策定したオープンな接続仕様で、AIモデルが外部ツールやデータソースとやり取りするための標準プロトコルだ。詳細はAnthropicの公式ドキュメントも参照されたい。
具体例:
- 会議トランスクリプト:Granolaなどを使いできる限り録音・文字起こし。「コンテキストライブラリに必須」と評価していた
- SlackとEmail:送受信メッセージをそのままAIに渡す
- 製品アナリティクス:あるプロダクトマネージャーはAmplitudeをClaudeに接続し、製品パフォーマンスデータを常時参照させていた
- SNSスレッド:ある参加者はAIでAI・マーケティング・ビジネス関連の約30のサブレditをスクレイピングさせ、動向把握に使っていた
同じ情報が役割を変える
コンテキストの役割は固定ではない。Slackのメッセージは最初アンビエントストリームの一項目だが、ユーザーが「このメッセージを使って」と指示した瞬間にローカルコンテキストになる。特定タスクで頻繁に参照していた記事がアーカイブされ複数プロジェクトで使われるようになれば、グローバルコンテキストに昇格する。
コンテキストが整うと、プロンプトが簡単になる
調査参加者の多くは「マイクをオンにして口頭で話しかけるだけ」というスタイルで作業していた。コンテキストライブラリがあれば、短くて曖昧な指示でも十分に機能するからだ。
記事中の具体例として、ある参加者がカスタム食事管理アプリを構築する際、Geminiでブレインストーミングした内容をマークダウンに書き出し、Claudeに対して「プロジェクトディレクトリのMDファイルを読んで実装して」とだけ指示した。一般的な基準では「雑なプロンプト」だが、ローカルコンテキストが十分だったため機能した。
どこに置くか
グローバルとローカルは別々のファイル・データベースに格納する(例:全プロジェクト共通の文体ガイドはグローバル、現在の草稿アウトラインはローカル)。アンビエントはユーザーのファイルの外、生のままソースソフトウェアに置き、MCP接続やAPIでClaudeからアクセスする、というのが参加者の共通パターンだ。
コンテキストライブラリを構築する際の判断基準は明確だ:
- ほとんどのタスクに適用されるか → グローバルとして整備し、常に参照できる場所に置く
- 現在のプロジェクト限定か → ローカルとして、関係ないタスクに干渉しないファイルに置く
- 整理する時間がないストリームか → アンビエントとしてエージェントをソースに直接つなぐ
本調査はClaudeユーザーを対象としているが、コンテキスト設計という考え方自体は他のAIエージェント環境にも通底する視点を含んでいる。AIエージェントの活用を本格化させたいと考えているエンジニアやプロダクト担当者にとって、実践的な示唆が多い記事だ。
詳細はThe 3 Roles of Context for AI Agentsを参照していただきたい。