9月22日、Scientific Americanが「Mathematicians use AI to find mysterious symmetries, solving decades-old problem」と題した記事を公開した。数十年にわたって未解決だった「逆ガロア問題」の最後の難関・M₂₃が、AIを活用した6人の数学者チームによってついに攻略された——「存在しないのではないか」とすら疑われていた多項式が、座標系の変換というブレークスルーで一気に現実のものとなった経緯が詳しく報告されている。
「逆ガロア問題」とは何か
19世紀フランスの数学者エヴァリスト・ガロアは、多項式方程式の解に隠れた対称性を分類する理論を構築し、それは現在「ガロア群」と呼ばれる。ガロア群は「多項式の解をどう入れ替えても方程式が成り立つか」という対称性の構造を表す代数的オブジェクトだ。
逆ガロア問題とは、「あらゆる有限群は、有理数上のある多項式のガロア群として実現できるか」を問う問題だ。つまり、どんな対称性の構造も、何らかの多項式の解の入れ替えパターンとして表現できるのかを問うている。一般的な有限群については多くの場合が解決されているが、どの族にも属さない例外的な群——26個の「散在群(sporadic groups)」——が長年の障壁として残っていた。
26個の「はぐれ者」群、最後の一つが陥落
通常のガロア群は整然とした「族」に属するが、26個の散在群はどの族にも属さず、存在理由すら定かでない例外的な群だ。1980年代、世界中の数学者チームがこの26個のうち25個について、対応する多項式を発見した。唯一残ったのが M₂₃(マチュー群のひとつ)だった。MITの数学者Bjorn Poonenはこう語る。「M₂₃を与える多項式は存在しないのではないかと疑う研究者すらいた。」
AIエージェントが「These might work!」と返信した
2024年5月、カリフォルニア工科大学で開かれた会議で、コロラド州立大学のRachel Priesがこの問題を提示した。以降、彼女を含む6名が共同チームを結成した——Pries、Poonen、テンプル大学のXiaoyu Huang、コンピューター支援数学研究所のBlake Jackson、コネチカット大学のKyu-Hwan Lee、そしてCaltechの博士課程学生Shaowu Zhangだ。
チームはAIを使ってM₂₃の中に対称性の組み合わせを探索させ、最小の候補として7つの曲面を特定した。次にAIで各曲面の方程式を数値的に近似しようとしたが、小数点以下90桁まで精度を上げてもコンピューターのメモリが尽き、プロジェクトは一時停止した。
転機は座標系の変更だった。HuangがチャットでAIの座標選択に問題があると指摘し、チームは複数のAIエージェントに新しい座標系を試させた。座標変換は一見地味な操作に見えるが、数値計算において計算量やメモリ消費が劇的に変わるケースがあり、今回はまさにそれが突破口となった。ほとんどのエージェントが失敗したなか、1つが7つの曲面のひとつに反応し、「These might work!」と返答した。
そこから数ステップで、チームは曲面の近似を厳密な方程式へと変換し、最終的に次数23の多項式の族を導出することに成功した。得られた多項式の一例がこれだ:
x²³ – 184x²¹ – 1150x²⁰ + 26151x¹⁹ + 18400x¹⁸ – 1808490x¹⁷ + 1545462x¹⁶
+ 67672923x¹⁵ – 42732528x¹⁴ – 1333395744x¹³ + 290615166x¹² + 10550424369x¹¹
+ 3700476348x¹⁰ + 35123826654x⁹ – 194398310718x⁸ – 1023887308293x⁷
+ 3961650395556x⁶ + 1949980486716x⁵ – 28142323927002x⁴ + 53599151839311x³
– 46185312415788x² + 19169943578802x – 3150159884154
この結果はarXivのプレプリント(arxiv.org/abs/2506.08538)として公開されている。Kyu-Hwan Leeは「5年前にはこのアプローチは現実的ではなかった」と述べており、AIによる大規模な候補探索と座標変換の組み合わせが今回の解決を可能にした核心だと言える。
並行して走っていたクラウドソーシングコンペ
M₂₃への挑戦と時を同じくして、クラウドソーシング型コンペも逆ガロア問題の周辺領域で開催されていた。Fields賞受賞者のテレンス・タオが創設に関わったSAIR財団が主催し、24個の根に作用するすべての群に対応する多項式を見つけることを目標とした。アマチュアから職業数学者まで世界中から参加者が集まり、最初のフェーズで目標とした2万5000件の対応関係がすべて達成された。
最終的な優勝者は2人のドイツ人数学者だったが、彼らのアプローチでAIが担ったのはアップロードスクリプトの作成のみだった。コンペ主催者のJen Paulhus(マウント・ホリヨーク大学)はこう述べている。「AIが使い放題の条件でも、最も優れていたのは人間でした。それは数学者として励みになりました。」M₂₃問題でAIが探索と座標変換の要として活躍した一方、コンペでは人間の数学的直観が優位を保ったという対比は、現時点でのAIと数学者の分業のあり方を象徴している。
「絶対ガロア群」という究極の目標
M₂₃の解決は、より大きな野心への一歩でもある。数学者たちは、すべての多項式の対称性を一度に記述する「絶対ガロア群(absolute Galois group)」の存在を想定しており、その構造の解明が整数論における最大の目標の一つだ。散在群のような新たな多項式の発見が、この巨大な群の構造に少しずつ光を当てていく。26個の散在群がすべて制覇されたいま、次の問いはこの絶対ガロア群の全貌へと向かっている。
詳細はMathematicians use AI to find mysterious symmetries, solving decades-old problemを参照していただきたい。