9月22日、Help Net Securityが「European AI spending is on track to reach nearly $470 billion by 2030」と題した記事を公開した。IDCの予測として、欧州のAI支出が2030年までに約4700億ドルへ達し、年率35%で成長するという市場動向を報告している。5年で4倍超という規模の拡大を牽引するのは、複数のAIエージェントが協調して自律的に目標を達成する「エージェンティックAI」への移行と、EU AI法対応への戦略的投資だ。
5年で市場規模が4倍超に
IDCの予測によれば、欧州企業のAI支出は2025年から2030年にかけて年率35%(CAGR)で成長し、2030年には約4700億ドルに達する。5年で4倍超という数字だ。そのうち**ジェネレーティブAIが55.4%**を占める見込みである。
成長の主な牽引役はエージェンティックAIだ。単一機能のコパイロット型から、複数のAIエージェントが協調して動作するマルチエージェント構成へと移行が進んでいる。エージェンティックAIとは、明示的な指示を逐一与えなくても、AIが自律的に目標を設定・分解・実行し、複数のエージェントが役割分担しながら協調動作する仕組みを指す。
この動きと連動する形で、**EU AI Act(EU AI法)**の施行が投資判断に影響を与えている。ユーザー向け透明性規則と高リスク義務の大部分は2026年8月2日に発効済みで、残りは2027年8月2日に適用される。IDCは、銀行・保険・医療がこの規制対応コストを最も強く受けると見ている。
IDCのデータ&アナリティクス部門リサーチマネージャーのCarla La Croceは次のように述べている。
「地政学的な緊張やサプライチェーンの混乱があっても、欧州企業がAI投資を最後まで守ろうとする優先度の高さは明らかだ。市場は実験段階から、業務効率・リスク低減・レジリエンスを目的とした戦略的な展開フェーズへ移行しつつある。」
ソフトウェアが支出の過半数を占め、成長も最速
2026年の欧州AI支出の内訳では、ソフトウェアが54.9%を占め、成長率も年率43.9%と最速セグメントだ。その中でもAIプラットフォーム(モデルやエージェントの構築・運用・管理基盤)の成長率は**年率61.1%**に達する。※編集部の試算では、61.1%/年で5年間成長が続けば市場規模は約11倍になる計算だが、この数値は元記事には記載がなく編集部が独自に算出したものである。IDCはこの成長をエージェンティックコンポーネントの急増と結びつけている。
業種別:銀行が最大、医療が最速
銀行が欧州市場の12.6%(2026年)を占める最大支出セクターだ。保険・資本市場を加えた金融サービス全体では**19.2%**、ほぼ5ドルに1ドルの計算になる。活用用途は、不正検出・脅威インテリジェンス・コンタクトセンター自動化・AIセルフサービスが中心で、パイロット段階から重要業務のマルチエージェント自動化へ移行しつつある。
2位はソフトウェア・情報サービス企業で、AI支出の半分超をエージェントワークロード向けのクラウドインフラに充てている。3位は小売で、デジタルコマースが主な用途だ。
最も成長率が高いのは医療機関で年率41.0%。2026年のAI支出の約3分の2が臨床ワークフローとリソース最適化に向けられている。英国のNHSはAIによる診療記録の自動作成(アンビエントスクライビング)を2万人の臨床医に展開中だ。ルーマニアでは国家復興計画の資金を活用したeヘルスプログラムが2万5000人超の医療提供者を接続している。
成長を阻む3つのリスク
IDCは欧州AI市場の主なリスクとして以下を挙げている。
- EU加盟国間での規制の断片化:国ごとに解釈・適用が異なる
- AIタレント不足:慢性的な採用難が続く
- クラウドコスト削減圧力:インフラ費用の増大に対する経営側の目線
同時に、これらのリスクへの対応として**AIガバナンスと保証サービス**(AIシステムの挙動を文書化・検証する仕組み)への需要が高まっているとIDCは指摘する。
東西欧州の格差
西欧はエージェンティックAIの本番運用・ジェネレーティブAIの自社資金展開・航空宇宙・防衛などの新分野でリードしている。中東欧はニアショアのAI人材ハブとEU復興基金の後押しで世界平均を上回る成長率を示しているが、規制の断片化と人材不足がボトルネックになっており、西欧との差を縮めるには至っていない。なお、元記事が参照するIDCのデータには中東欧の支出総額が別掲されていないため、東西の差の定量的な把握はできないと元記事は説明している。
詳細はEuropean AI spending is on track to reach nearly $470 billion by 2030を参照していただきたい。