9月22日、Alexandru Nedelcuが「AI Has No Wisdom and Neither Will You」と題した記事を公開した。AIへのコーディング依存がエンジニアの成長とコード品質の両方を蝕むという主張を展開した内容だ。
CursorやGitHub Copilotといったコーディング支援AIが急速に普及し、「AIなしではコードを書かない」という開発者が増えた2025〜2026年の現状を受け、著者のAlexandru Nedelcuはこう問いかける。その便利さの代償として、私たちは何を失っているのか——と。
「2025年以降、コードを書いていない」という声が増えている
著者が直近1ヶ月で実際に耳にしたというフレーズがある。「2025年以降、コードを書いていない」「コードレビューは死んだ」「もはや誰もコードを読まない」。業界が変化しているのは事実だが、Nedelcuはこの流れを明確に批判する。コードを読み書きしなくなった人や組織は、自分たちのリスクで行動している、と。
なぜ「バイブコーディング」は崩壊するのか
「バイブコーディング(vibe-coding)」とは、AIに対して感覚的・自然言語的な指示を与え、細部を深く考えずにコードを生成させる開発スタイルだ。2025年初頭にAI研究者のAndrej Karpathyが提唱した表現で、その後急速に広まった。
このアプローチは、時間とともに保守不可能な混乱へと退化する。理由はシンプルだが、解決が難しい。コードの保守性や優れたアーキテクチャには、すぐに測定できる指標が存在しないからだ。悪いアーキテクチャの影響が表に出るまでには、数ヶ月、場合によっては数年かかる。
悪いコードの特徴を挙げると次のようになる。一か所を変えると全く別の場所でロジックが壊れる(予期しない遠因バグ)、機能追加のたびに複数箇所の修正が必要で抜けが生じる、設計の不変条件(invariants)が不明確でそれを守る人間がいない、テストにモックが必要で実装詳細が漏れ出しリファクタリングを妨げる——といった具合だ。
こうした問題を早期に察知できるのが、熟練エンジニアの「勘」だ。本番環境のバグ修正で長時間を費やし、「二度と同じ過ちは繰り返さない」と誓った経験から積み上がる直感。それはルールのリストには変換できない。文脈依存であり、エキスパートはルールに従うのではなく、ルールを作る側だ。
AIが「知恵」を持てない本質的な理由
ここが記事の核心となる問いだ。なぜAIはいくら使われても「知恵」を得られないのか。
AIは「保守性」を学習できない。強化学習には即座に測定できる報酬シグナルが必要だが、保守性の評価には月単位・年単位の時間がかかる。AIが学ぶルールは初心者向けのルールブックから来ており、学習するコードの大半は「世の中に存在する凡庸なコード」だ。保守性のためのフィットネス関数は定義できない——もし定義できていたなら、とっくにlinterに組み込まれているはずである。
著者はAIの「コード簡潔化」の失敗を具体的に指摘する。AIは関数を小さく分割しようとするが、その小さな関数が実際には再利用可能でないことが多い。大きな関数を理解するために、分割後の小さな関数の実装まで読まなければならないなら、分割は逆効果だ。再利用可能で意図を明確にする関数の設計は一種の芸術であり、スキル習得の段階を示すドレイファスモデルでいえば「上級初心者」段階にあたる多くの開発者には、まだ習得できていないスキルだ。AIも同じ段階にとどまっている、というのが著者の見立てだ。
「学び」が失われる構造問題
技術的な品質劣化と並んで、著者がより深刻と見るのが「人間の成長が止まる」という問題だ。
かつてはエンジニアが選択し、責任を取り、失敗から学んでいた。AIに依存するようになった人々は選択をしなくなり、責任も取らなくなる。AIはミスをするが、AIはそこから学ばない。人間も学ばない——この二重の「学習停止」が、長期的に組織の技術力を空洞化させる。
ただし著者自身はLLM活用を否定しない。日常業務に組み込み、同僚にも教えているという。退屈で消耗するタスクをLLMに任せることには価値がある。重要なのはツールとしての位置づけだ。AIが判断し人間が承認するのではなく、人間が判断しAIが補助する——その主従関係を崩してはならない、というのが著者の立場である。
「NO-AI」を競争優位にする企業が登場する
こうした問題意識を踏まえ、著者は業界の次の動きをこう予測する。将来、「NO-AIポリシー」を誇りを持って掲げる企業が増え、それを競争優位として打ち出すだろう。そしてその判断は正しい、と。
「自動組み立てラインは常に効率的だ」という反論には、ソフトウェア産業の特殊性を持ち出す。私たちはもともと大規模な自動化をやってきた産業であり、LLMだけが自動化の手段ではない。「コーディングは解決済みの問題ではない」——GCCやLLVMをクローンすれば、LLMに指示するより高品質なコンパイラが無料で手に入る。同じCRUDアプリを再発明し続けることよりも、より価値ある目標はいくらでもある、と著者は締めくくる。
詳細はAI Has No Wisdom and Neither Will Youを参照していただきたい。